（P２５)

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　　　Ｓｉｄｅ　Ｂ　三十六


「――どうにかなりそうかな」

　一行は緑の装飾品を通して、もう一つの世界からの答えを受け取っていた。

（……彼等が在る以上、以前と全く同じにはならないだろう）
　実際に動いたこちら程、気楽な心理状態ではないにしても。

「……さて、僕とセラは一度戻るけれど、――君はどうする。デュオン」
「――え？」

　突然言われて、虚を突かれた。
　ルックは淡々と言葉をつづる。

「君も、一度決着をつけるべきじゃないのか？」
「――――いいのか？」

　訝しげに、確認する。
　――意外だ。

「……駄目なら言わない」

「――頼む！」

　デュオンは真剣な眼差しで、その申し出に飛びついた。

　　　Ｓｉｄｅ　Ｂ　三十七


　建物の前で、足を止める。

「――許されると思うか？」
　それは決して許されない、あってはならないこと。

「わかりません……ですが、例え、どうあったとしても、私はご一緒します」
　――妹弟子の言葉。

　デュオンがため息をつく。
「……あの人は、言ってることは堅苦しいうえ抽象的で解かりにくいし、問いかけてもはぐらかすし、
毎回夜中に人の枕元に立つしで、言いたいことは山程ある訳だけど、
――何だかんだ言って……許すと思うよ」

　投げやりと、不満が透けるそのセリフは、最後だけは、デュオンがそう感じていることが本当だとわかる。
――不本意そうだけど。

　思わずこっちも息をつく。
「――嫌なら、フォローしなくていい」

　師匠に言いたいことがあるなんて、知っている。

　デュオンは多少不満そうに、

「言わないのも嫌だよ、二人とも辛気臭い。……景気良くしろとは言わないけど」

「――全く……」

　ぼやくようにつぶやきながら、

　それでもルックは、吹っ切った様に踏み出した。

　　　Ｓｉｄｅ　Ｂ　三十八


　静寂の空間に静かに声が響く。

「……あなたの意に反し、百万の命を狙う悪鬼となった自分が、今更許されようとは思っていません。
それでも、彼等が��僕�≠ﾌ存在を望む以上、僕は彼等といきます。
――どうか、お許し下さい」

　罪を負う身で、死以外の道筋を。
　この身に意味などなくても。
　彼等がそれを見出すのなら。

「レックナート様、このようなことになり、申し訳なく思っています」
　隣に立つセラも頭を下げる。

　……返された言葉は、一言。

「……許します」

　僅かに黙礼し、半ば背を向けた所で、足を止めた。

「……本当は、辛そうなあなたを見るのは、少し、苦手でした」

　あなたは涙を持たないというけれど、本当に情けを知らなければ、と、少しだけ思う。

　彼等と共に……傍観者でいたくないと、そう感じた以上、僕達の道筋は同じにはならないのだけれど。
　それでも、唯一、闇の中で、生きる術をくれた人だ。

「――これでも、感謝、しています。不出来な弟子で申し訳ありませんでした。……レックナート様」

　すると、僅かだけ、表情が緩んだ気がした。

「失礼します」

　ルックはそのまま背を向けた。

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　闇を秘めた眼差しがそこに在った。

「僕はルックをあなたのようにはしたくない。
――僕達は行きます。
だけど、あなたも言えば良かったんだ」

　挑む眼差しが相手を見据える。

「復讐でも、憎しみでも、その気持ち自体を責められる程、俺達は立派なんかじゃなかった。
それに……全てを切り捨てられる程、冷たくもないから」

　厳しい眼差しで、眉をしかめて、それでも瞳を上げ、真っ直ぐに見据えた。

　光と闇を知る――。
「あなたは……人間だから」

　その瞬間、僅かに驚きと共に息を呑むのが見えた。

　そう、紋章も、誰が言い出したか知らない、バランスの執行者も、クソ食らえだ。
　人が、人で在られない位なら。

「リアンとジョウイに紋章を渡す手引きをしたことや、グレミオのことも、僕は納得などしていない。
僕は、もう、あなたと関わりたくはない。本心を……見せない人になど」

　相手が言葉を口にした。
「あの子を……あの子達を頼みます」

　僅かな間。

「それは……あなたの言葉？」

　紋章の意志や、バランスの執行者としてなどではなく。　

「……ええ、そうです」

　デュオンは苛立つ感情を押さえる様に、一度息をつく。
「なら……わかりました。僕は、自分の望みの為に生きるけれど……覚えておきます」

「……」
「さよなら、レックナート」

　素っ気なく言い放つと、踵を返した。

　　　Ｓｉｄｅ　Ｂ　四十


「言いたい放題だな」

「！」

　聞いていたのか、と問うまでもないが。

　部屋を出たとたんに投げられた視線と言葉に。
　デュオンは僅かにばつの悪そうな表情をした。

「……でも、少しだけすっとしたよ」
　その言葉に意外そうに眼を見開く。

「……君は怒ると思った」
「まぁね。でも、久々に君らしかった。……十五年もうだうだされてりゃ、嫌にもなるさ」

　後半トーンが変わったルックの放つ言葉に、デュオンは複雑に息をつく。

「……そうだな。……今度、ササに会ったら殴っていいか？」
「勝手にしなよ。僕が親友殿を殴っていいなら」

「……仕方ないな……」

「――珍しいな」
　許可を出すとは、――思わなかった。

「君がテッドに怒ってたのも、知ってるからな」

「……ふん。――行くんだろ」

　歩き出しながら、言葉を投げる。

「ああ」

　言いながら足音が追い付いて来る。

　――彼等が認めるなら、それでいい。
　人として、もう一度、彼等が待つ場所へ。

　外へと踏み出す。
　世界は少し――眩しい。


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Ｆｉｎ．

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