（P１６)
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Ｓｉｄｅ Ｂ 二十一
「ここ……ですか？」
高速路と呼ばれる、石造りの地下通路の中に、その扉は存在していた。
「ああ。かつて、真なる水の紋章が封じられていた、シンダルの遺跡だ」
シンダルの遺跡とは、古（いにしえ）の放浪民族が世界各地に残したと言われる、高度な文明の痕跡を残す遺跡。
既に見かけも中身もデュオンに戻っている彼が手をかけると、今はた易く扉は開く。
「今回の戦いで既に封は解かれ、今はどちらの勢力にも用の無い場所の筈だけれど、〝場所〟 としては使える筈だ」
「随分、詳しいですね」
デュオンの説明に、ジョウイが視線を向ける。
扉の向こうには、かつて、巨大な遺跡だったものが、青空の下に広がっていた。
「……紋章の動きだけは把握していたから」
「……」
「ここで、テッドさんを戻せるんですね」
リアンが確認するように言う。
「多分」
「多分……って、大丈夫なんですか」
デュオンの応えにジョウイが突っ込みを入れる。
「〝場〟が必要って話、――それにも書いてあったろ」
「ええ、確かに」
ジョウイは隠れ家から拝借して来た本を抱えていた。
「シンダルの遺跡で駄目なら、後は、ハルモニアの神殿に乗り込む位しか思い付かないんだが……」
「……結局、この場所が最適と言う訳ですね、行きましょうか」
「ああ」
「……確かにここなら周囲に被害も出ないでしょうね、モンスター以外は」
やれやれと言った感じにジョウイが息をついた。
他のダンジョン同様に、ここにもモンスターが存在する。
「そう言えば、昔一緒に行ったシンダルの遺跡にも、モンスターが一杯出たっけ」
十五年前、リアンは、ジョウイやナナミと、トレジャーハンターの手伝いをしたことがあった。
「へぇ、二人とも初めてではないんだ」
「一応、そうですね」
「場所はこれでいいですよね、新手が来ないうちにやりましょう」
リアンの言葉に、デュオンはうなずき、右手に声をかける。
「テッド、いいか？ ――じゃ、やるか」
中央に〝器〟、その正面にデュオン。左右にリアンとジョウイが陣取る。
「「我が真なる紋章よ、〝始まりの紋章〟 の名において、生と死を司る紋章と継承者にその力を貸し与えよ」」
リアンとジョウイ、二人の声が重なる。
「我が真なる紋章、〝生と死を司る紋章〟よ。我が前に力を示し、かつての主、テッドの存在をここに呼び戻し給え」
二人の力を受けたデュオンが〝力〟を解放する。
強い輝きと力が大気を震わせて集束する。
輝く闇が〝器〟 を中心に展開し、強い衝撃が遺跡を貫く、そして――――
器に満ちた何かに、内側から器が弾けた。
「――――！」
全員が固唾を呑んで見守る中、その視界に……一つの影が映る。
「…………！」
リアンとジョウイには初めて見る―――だが、デュオンには酷く懐かしいと言える程の……。
それは、かつてのままの、茶色の髪の少年の姿だった。
彼は三人と自分とに視線を巡らせると、
「デュオン、成功みたいだぜ」
明るい声で言った。
デュオンは駆け寄ってテッドを抱き締めた。
「テッド！ ……会いたかった……！」
結局、それしか言葉にならなかった。
言いたいことは沢山あった筈だったけれど。
紋章の内側とは全く違う、確かな感覚。
それが、泣きそうな程、嬉しかった。
「デュオン……ああ、俺もだ」
テッドもデュオンを抱き締め返した。
リアンとジョウイは、初めて見る二人の様子を、徒、見詰めていた。
親友同士の抱擁を終えると、二人はリアンとジョウイに視線を向ける。
「サンキュな、そういや、実際に顔合わせたのは初めてか？ んじゃ改めて、俺がテッドだ。よろしくな」
「あ、リアンです、こちらこそ」
「ジョウイと言います。宜しくお願いします」
「そんな堅苦しくなくていいって」
デュオンが二人に向かって微笑む。
「二人とも、ありがとう。――テッド、何ともないか？」
「ああ、平気だ」
「何かあったら、ちゃんと言えよ」
「解ってるって。じゃ、あの子供を何とかしてやらねーとな」
「うん」
その時――。
「あ――！ トーマスさま！ あそこに誰か在ますよ！？」
「ええっ？ 待ってよセシル！」
ガチャガチャ、バタバタと人がやって来る。
槍と鎧を装備した兵士風の少女と、茶色の上着と緑のズボンの普通っぽい少年。
だが、それを見たデュオンの眼が見開かれた。
「――！ 天魁星……！」
「え？」
リアンが聞き返す。
（天魁星って……）
「じゃあこの人達……今回の百八星……？」
「ああ……」
「勢力の片翼ですか？」
ジョウイが遠回しに訊く。
「そうなる」
「どうしてここに……」
ジョウイがつぶやいた。
「あの……僕達が何か？」
トーマスと呼ばれた少年が息を切らせて訊ねた。
「いや、何でもない」
「それより、何があったんですか？ すっごい光と衝撃みたいなのがありましたよ？」
セシルと呼ばれた少女が緑の瞳を向ける。
「ああ……済まない。魔法の実験をしていたんだ。ここにはもう、誰も来ないと思ったから」
デュオンが尤もらしく、当たらずとも遠からずの答えで誤魔化す。
「君達こそ、どうしてここに？」
「ええと……僕は一応、西にある湖の城の城主をやっている、トーマスと言います」
「ああ」
デュオンがうなずく。
「ご存知ですか？」
「一応」
様子見に、訪れたことがあった。
「城主？ 現在、戦いの拠点になっている城のですか？」
ジョウイがやや固い口調で訊ねる。
「ええ。見ての通り、僕は戦いの方はあまり……と言うより、さっぱり役には立てませんから。
せめて違うことで役に立とうと思って」
「違うこと？」
テッドが横から城主を覗き込む。
「ええ、こんな遺跡とかには良い薬草や漢方薬が生えてるんです」
「なるほど。それで、か」
「城主自ら、ですか」
ジョウイは少し意外そうだ。
「ええ、城主と言っても、あの城は皆で守ってますから」
「トーマスさまのお陰で皆のお給料も払えるようになったんですよ。トーマスさまは立派な城主さまです。
私も守備隊長として鼻が高いです！」
胸を張って言い切るセシル。
「へー守備隊長」
しかしテッドはリアンと違う所に引っかかった。
「あのさ……皆の給料って――もしかして、貧乏なのか？」
トーマスは少し照れた風に言う。
「当初はかなり……お城も破損してましたから」
「苦労してんだな」
「いえ、皆がいますし、大丈夫ですよ」
「――そんなものかもな」
「――え？」
ぽつりとつぶやいたデュオンの言葉にジョウイが反応する。
「いや……軍主や城主なんて、使い走りみたいな所もあるけど」
デュオンはどこか懐かしむような眼差しで言葉を切った。
「それだけじゃ、ないしな」
「マ……いえ、そう……かも知れませんね」
思わず本名で呼びそうになり、ジョウイは取り消した。
ここで、十八年前の英雄の名はまずいだろう。
「トーマスさま、さっきの衝撃で逃げちゃったかも知れませんよ？ はやく捜さないと」
「あ、そうだね」
「――捜す？ 薬草じゃなくて？」
薬草なら逃げないだろう。リアンが目をしばたかせる。
「今日は、この子の仲間を一緒に捜しに来てるんですよ」
トーマスが向いた先にいたのは――――。
「――――犬？」
ふろしき包みを首に巻いた、小さめの犬だった。
「この辺りに仲間がいるって話だったので」
急にデュオンが半眼で遠くを見た。
「そうか……十五年前のムササビか……」
「あ！」
リアンにも思い当たる節があるようだ。
「何？」
「何だ？」
ジョウイとテッドは意味が解らない。
「ええとね……」
リアンが説明に迷うように言葉を止めると、デュオンはどこか神妙な面持ちでつぶやく。
「……とある場所を小人数で延々練り歩くと、色違いのマントを着けたムササビが付いて来るって逸話があってね……」
「色違いって……。――！」
ジョウイの脳裏にも思い当たった。マントを着けた幼馴染みのムササビの姿。
（もしかして……ムクムクの仲間？）
「もしかして……？」
リアンの顔を見ると、リアンは〝そうだよ〟とうなずいた。
「まさか、あなたも……？」
ジョウイは今度はデュオンの方を向く。デュオンは視線を向こうに向けたまま、
「それ以上……言わないでくれるかな……」
（この人も付き合ったのか……）
「――はい――」
きっと大変だったのだろう。ジョウイはそれ以上の追求を止めた。
「？」
セシルとトーマスは疑問符を浮かべている。
「ところで、あなた達のお城って、皆の名前を刻んだ〝石板〟とか、ある？」
ためらいを感じさせながらも、踏み込んだリアンの言葉に、デュオンがピクリと瞳を向けた。
トーマスは僅かにとまどい顔で、
「石板、ですか？ いいえ、僕の知る限りではないです」
「そっか……」
リアンは視線を落とした。
「そう言えばトーマスさま、私見たことありますよ」
「え？」
セシルの言葉に視線が集まる。
「お城じゃなくて、もっと北の湖の近くに、皆の名前が書いた石碑みたいなのが落ちてるんです。
お城の誰かが作ったのかもと思ったんですけど」
「……」
石板の意味を知るリアンとデュオンは複雑そうに瞳を陰らせ、視線を交わした。
「石板……？何だろうね。後で誰かに聞いてみようか」
トーマスの言葉に、デュオンが重く口を開く。
「いや、多分誰も作っていない。勝手に仲間の名前が刻まれる。あれは、そういう石板なんだ」
「え？」
「歴史が動く時、地上に百八の星……宿星が集う。あの石板は百八の仲間の名を記す〝約束の石板〟
――そう、呼ばれていた。それ以上は、解らない」
デュオンはトーマスを少し辛そうに見据えた。
「君は……僕が知る限り、三人目の天魁星だ」
「天魁星……？ 何ですか、それは」
「星主……星――仲間の中心」
「僕がですか？ まさか……」
「まぁ、一般論だから」
デュオンは雰囲気を緩めて微笑する。
「宿星も星主も、本人達にはあまり関係無いしね」
自分の望む道筋を選んでいただけ。
「あなたがたは一体……？」
「徒の旅人だぜ？ 今はな。まぁ気にすんなよ、敵じゃねーからさ」
テッドが笑って言う。
「……」
急に黙り込んだリアンに、ジョウイが声をかけた。
「――どうかしたのか？」
「ううん、一緒に戦えないのは、残念だなって」
リアンの言葉にデュオンが同意した。
「ああ。僕も、残念だ」
「そういう……ものですか？」
ジョウイは不思議そうに問う。助けたい人間の敵方だと言うのに。
「うん」
リアンはあっさりうなずき、デュオンは少し哀しげに微笑む。
「それでも……僕達が出会った全ての人達が幸せになれることを願うよ」
「――安直ではないですか？」
全ての人が幸せになれる状況など、恐らくないのだ。
「――願うだけは、タダだろう？」
少しだけ、強い瞳。
「――そうですか」
きっと解っていて、選ぶのだ、この人は。
「じゃあ、僕達は行くよ。さわがせて、悪かった」
「いいえ……あの。僕も――皆が幸せになれたらと思います。グラスランドもゼクセンも関係なく」
トーマスの言葉に、デュオンは眼を細めた。
「――仲間は、大事か？」
トーマスは真っ直ぐに答えた。
「はい。最初はなりゆきでしたけど――あの城の仲間は僕にとって、かけがえのない存在です」
「……そうか」
デュオンはどこか辛そうに、
「僕は……敵も味方も大事だったよ」
「――敵も――」
「大事な人が同じ道を歩けるとは限らない――――まぁ、昔話だから、気にしないで。――じゃあね、トーマス」
僅かに茶化す様に微笑むと背を向ける。
その背中を追うように、声がかけられた。
「あの！ あなたも――諦めなければきっと、いいこともありますよ」
願う様に、告げる声だった。
「――そうだな」
肩越しにそう応えた。
――来た道を歩きながら、デュオンが言う。
「……戦い辛いだろうな」
「ルックですか？」
リアンが問い返す。
「ああ」
「でも……僕達がルックに届けば、あの人達と戦わなくて済む――そうですよね、デュオンさん」
「そう願うよ」
「そうするんですよ。僕達は――全部守る為に歩くんです」
「――――頼りにしてるよ」
その、前を向く精神を。
「はい。ところで……一つ気になるんですけど」
「何？」
「――石板の……『天間星』の名前……」
本来、〝彼〟 の名が刻まれていた場所。
「見に、行きたいか？」
「はい」
「そ……か」
「駄目ですか？」
「いや……違……」
デュオンの手がリアンの腕を掴み、その身体が傾いだ。
「デュオンさん！」
「使い過ぎか？」
テッドが飛び出してデュオンの紋章を見る。
「悪い……少し、休まないと……」
「ああ解ってる！ 取り合えず、戻るぞ！」
一行はデュオンに肩を貸して高速路まで戻った。
風の来ない壁際に陣取る。
デュオンは既に眼を閉じていた。
テッドがデュオンの右手を掴み、じっと様子を見る。
「テッドさん、デュオンさんは……」
「……ああ、休ませときゃ、何とかなる」
「そう、ですか」
「解るんですか？」
ジョウイの疑問にテッドはうなずく。
「ああ。本当は、俺達とか、村の一つでもぶっ潰れれば、すぐ回復するだろうけどな」
「テッドさん、それは……！」
とがめるようなジョウイの言葉にテッドは軽く肩をすくめて。
「解ってるって。――こいつは、上手くやってる。俺よりずっとな。……お前等は平気か？」
と、二人を顧みた。
「あ、はい！」
「ええ、何とか」
テッドはデュオンに視線を落とす。
「ったく自分こそ無理しやがって……俺の、所為だな。こいつがこんな苦労背負っちまったのも……全部」
テッドは悔しげにつぶやく。
「……でも、あなたに会った時、デュオンさんすごく嬉しそうだった。――あんな風に笑うの、初めて見たよ。
絶対……あなたの存在は悪くなんかない筈だよ」
「お前――」
テッドが驚いた風にリアンを眺める。
ジョウイも口を添える。
「まぁ、善悪は別としても、マクドールさんにとって重要な存在だったのでしょう。
――個人的には、マクドールさんの御友人はもう少し理知的な方かと思っていたんですが」
「お前～未だそんなこと言うか？！」
「テッドさん！ デュオンさん起きちゃいますよ！」
リアンが小声ながらも鋭い声音でテッドを止める。
「あ――」
テッドは頭に手をやるとその場にあぐらをかいた。
「ま、お前等のことだって信用してるから見せたんだろうけどな」
「どういうことです？」
ジョウイも側に腰を降ろした。
「あいつ、気を許してる人間じゃなきゃ、そういうとこ見せないからな。昔からさ」
「――――」
「まぁ今は、俺だけがデュオンの友人じゃないのかもな」
「……」
リアンが難しい顔をしている。
「ん？ どうかしたか？」
「でも僕は、デュオンさんが、あなた以外の誰かを〝友人〟とか〝親友〟 とか言うのを聞いたことはないです」
「あの魔法使いの子供もか？」
リアンの眉の皺が深くなった。
「……一度、友人じゃないと言って、怒らせてましたよ……」（※それぞれの応え編Ｐ４～Ｐ７参照）
「え゛……そこんとこもう少し詳しく教えてくれ」
テッドは興味を引かれた風に身を乗り出した。
「デュオンさんの許可なしにですか？」
「頼むよ、一生のお願いだからさ、教えてくれ」
「……何だか軽そうですね」
横からジョウイが突っ込む。
「やかましい！」
「――けどリアン、これからその魔導師に立ち向かう以上、彼に関する情報は共有した方がいいかも知れないよ」
ジョウイが一転して取り成す意見を告げる。
「……ジョウイ」
「頼むよリアン！」
リアンは少し迷う様にデュオンの方を見た。そして……。
「……解った……けど、あんまり詳しくはないよ？」
「いいさ、頼む」
リアンは思い出すように空中を見ながら言葉を紡ぐ。
「ええと……確かフッチだったかな……仲間の一人がデュオンさんに聞いたんです。〝ルックと友達なんでしょ？ 〟って。そしたらデュオンさんは〝友達とは違う〟って答えて。そこに丁度ルックが来て聞いちゃって」
「あちゃーって感じだな、そりゃ」
「〝フォローしておく〟って言ってたけど、気になって。
後でデュオンさんの家を訪ねてみたら、デュオンさんは出掛けてて……戻って来た時には仲直りしたみたいで。
何か……宣戦布告とか、ライバルみたいなものだから……とか言ってましたけど」
「ふーん……ライバルな。オレには縁が無い」
存在（い）たのは宿敵だけか……。
「テッドさんてどういう人なんですか？」
ふいにリアンが聞く。
「あ？」
「あんまり聞いたことなくて」
「じゃ、どこまで知ってる？」
「えーと、解放戦争の時失くしたデュオンさんの親友で……」
「前、ソウルイーターの所持者……ということ位ですね」
二人が答える。
「随分はしょってんなー、けど、重要なトコは伝えてる、か。まあそれで合ってるな」
テッドがデュオンの肩を軽く突っついた。
「オレがこいつに打ち明けるのに、丸二年はかかってるけどな」
「紋章については、革命時に既に広まっていましたから、彼の名を聞けば解りましたよ」
「そっか」
ジョウイが続けて質問を口にした。
「いつからの御友人ですか？」
「こいつが十三位の時かな、一緒に在たのはニ～三年て所か」
「意外と短いですね」
もっと、長い付き合いなのかと思っていた。
「きっかけとかは？」
「こいつの親父さんに戦災孤児として拾われたんだよ」
「……そうだったんですか」
「ルックとも、その頃会ってたりした？」
リアンの言葉にかすかに苦味を感じる笑みを浮かべる。
「まぁ、その頃だな。こまっしゃくれの子供（ガキ）だった」
「僕には頼りになる仲間だったけど、そうだったんだ」
「お前等はどう言う知り合いだ？」
その問いにリアンが答える。
「僕とジョウイは幼馴染みで、十五年前のデュナン統一戦争の時に、デュオンさんに会って、力になってもらいました」
「なるほどな」
「ルックにもその頃、かな」
「――――」
ひとしきり情報交換を終えて、僅かに沈黙が降りると、それに反応するかのようにデュオンが眼を開いた。
「――大丈夫ですか？」
リアンの言葉にデュオンは静かにうなずく。
「ああ」
「動けるなら、移動しましょう。――湖の城までは距離があるようですし」
「そうだな」
ジョウイの提案に、デュオンは立ち上がり、軽く首を振る。
「――移動はいいけど、まだ紋章がしばらく使えないから、よろしく頼むよ」
「解ってる！」
テッドが即座に答えた。
「解りました」
ジョウイも静かにうなずく。
「何だかこういう時は〝瞬きの手鏡〟が懐かしいですね」
リアンが話題にした〝瞬きの手鏡〟とは、対になる大鏡をどこかに設置しておくと、一瞬でそこまで戻れるようになる帰還用のアイテムだ。
リアンとデュオンには馴染み深い存在。
「今、城とかに飛んでも困るけどね。あれは本拠地がないと」
「確かに……」
リアンとデュオンは内輪の会話を繰り広げながら、高速路を後にした。