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Ｓｉｄｅ Ｂ 二十二
湖の畔に、人目を避けるかのように石板が佇んでいた。
そして、多くの者の名が連なる中、『天間星』その場所には。
「ルック……」
その人の名が、刻まれていた。
「変わって……ないね……」
十五年前と同じ。そして恐らく十八年前も。
「……百八星の内乱……？ シャレにならないな……」
デュオンさんが辛そうに石板を眺めている。
「ユーバー……こいつまで……」
驚き……と、かすかに苦い響き。
「知り合いか？」
テッドが問う。
「三百年前、君の村に火ぃ放った奴だよ」
「！ こいつが？！」
「ああ……ウインディやネクロードと組んでた。単に雇われかも知れないが」
「知りませんでした。十五年前、顔を合わせていたでしょう」
僕のところで、と言う意味合いを含めてジョウイが言う。
「まぁ、君達の勝敗に関与する気はなかったし、そこまで恨んでないさ」
徒、百八星なのが引っ掛かっただけで。
「それにしても、向こう側の人間まで宿星に入っているのは初めてだな」
デュオンさんの言う通り、今までは違っていた。
今回は……
「――ルックの所為かな？ ルックが向こう側にいるから……？」
「どうかな……僕達の時とは、少し違うみたいだ」
宿星も、天魁星も。
その時、後ろから誰の物でもない声がした。
「――デュオンさん」
「！ フッチ……」
デュオンさんがつぶやく。
（え？）
デュオンさんに深刻そうな眼を向ける、翼飾りを頭に付けた竜騎士。
その人には、確かに当時の面影があった。
「フッチ……」
「誰？」
隣でジョウイが訊ねる。
「十五年前、一緒に戦ってた人だよ」
「そうか……」
デュオンさんとフッチは何やら真剣な顔で話していたが、やがて話し終えたらしく、フッチがこっちに顔を向ける。
「――それで、皆、これから〝彼〟の所へ？」
「うん。久し振り――フッチは湖の城に？」
そう言うと、フッチの顔に真剣味が増した。
「ええ、急いで下さい。じきに儀式の地への進軍が始まります」
「僕等に、そんなことを話しても？」
ジョウイの言葉にフッチは彼にしては険しい表情で、
「かまいません、敵じゃありませんし」
と、言い切った。
「フッチ、そっちは頼むよ」
デュオンさんは幾分哀し気に言う。
「はい。――どうか、出来るなら……ルックを助けて下さい」
「……ああ」
お互い、僅かに辛そうな言葉。それを振り切るように。
「まかせて、フッチ」
そう言うと、フッチはうなずき、複雑そうに石板を眺めてから立ち去った。
「何を、話していたんですか？」
ジョウイがデュオンに問う。
「ハルモニアの秘法以外の今までの経緯と、個人的な会話」
「右手の調子はどうですか」
「まだ、八割だな」
その答えに、ジョウイが提案する。
「協力、しましょうか」
「協力？」
「なるほど……」
〝協力〟、な。
名付けて、〝急遽魔物狩りツアー〟。
「人でなきゃいいなんて、エゴかな……」
デュオンが右手を眺めてつぶやく。
「背に腹をかえてるんですから」
ジョウイの声がする。
「解ってるよ」
これ以上、犠牲は欲しくない。
「デュオンさん、次、エリアボス行きます！」
「ああ」
走り出すデュオンにジョウイが視線を送る。
「……」
マクドールさんは、少し印象が変わった。
以前はもっと、影の様で。
心を見透かすような闇がそこに在って。
彼は、その闇を、当たり前のように肯定して見せた。
……羨ましいと思うのは、そこに捨て切れない望みがあるからだ、と……
――そう、恐らく十五年前のあの時、彼は、自分にとって、
己の中の闇を映し出す鏡だったのだ。