（P４）
ＣＡＳＥ・１〜険悪〜
それは、ふとした会話のはずみだった。
城内でサスケとフッチ、それとリアンの姿を見かけた。
それが、はじまり。
「ったく冗談じゃねぇよ、何様だよアイツ。毎度毎度、俺達まで巻き込みやがって！」
協力攻撃での話に、怒髪天を衝く勢いで息巻くサスケに、フッチも腹に据えかねてる様子で、同意する。
「確かに、ああもやられると、こっちも身が持たないし腹は立つよね」
「だろ！？ 何だって味方に攻撃されるんだよ。おまけにあの態度！！ 何が『真の紋章は扱いが難しい』だよ、ワザとに決まってんだろうが！！」
「だろうね、気持ちは良く解るよ」
フッチはうなずきながらも、サスケとルックの相性の悪さに、密かにため息をつく。
協力攻撃で敵もろともルックに魔法攻撃をされて、険悪になるのはいつものことだが、サスケは今日のルックの一言が特に気に障ったようだ。
『だいたい、君が鈍いんだよ。忍者のくせに』
「っだーーっ！！ 考えるだけで腹立つ！！ 人を馬鹿にしやがって……！！」
「全くだね」
「あんなん、仲間じゃねえって！」
サスケがそう叫び、フッチがふと向けた視線の先に、デュオンがいた。
「……あ」
フッチが気まずさに声を上げると、二人の様子を見ながら、どうするべきか考えていたらしいリアンも視線を上げる。
「デュオンさん」
いくぶん和んだ様子のリアンとは対照的に、フッチは、表情を曇らせてデュオンに謝った。
「――ごめんなさい、気に、障ったなら……」
「……どうして？」
「……友達、なんでしょ？ ルックと」
「え！！？」
あいつに友達！？
サスケは信じられないと言った風に叫んだ。
一方デュオンは静かな口調で、少し考えるような間の後、答えた。
「友達……いや、違うよ」
「――え、でも……」
とまどいを含んだ言葉は驚愕に変わり、フッチはデュオンの裾を引っ張った。
デュオンがフッチの視線を辿ると、ルックと目が合った。
ルックは表情さえ変えずにそのまま通りすぎる。
気のせいほどの、かすかな陰。
「――――」
デュオンはそれに目を取られ、立ちつくした。
だが、それはほんの数秒。
デュオンはかすかに視線を落とし、ルックから視線を外す。
「デュオンさん……」
気遣わし気にフッチが声をかけた。
「――嘘は、言っていない」
その言葉がどこか重く感じるのは、フッチの気のせいだろうか。
「でも――大事なんでしょう？」
ふいに、真っ直ぐな瞳で リアンが彼を覗き込んだ。
「友達と……違っていても」
「…………」
思考にさえならない、重い感覚。
それを後悔と呼ぶのか、罪悪感なのか、もっと違う何かなのかは、デュオンにも解らない。
それでもデュオンはリアンに向かって軽く微笑んだ。
「後で……フォローしておくよ。それまでは……彼との協力攻撃はしない方がいい」
「……とばっちりかよ」
「サスケ」
ぼそりとつぶやいた言葉を、フッチがいさめる。
「しょうがねぇだろ」
アイツが嫌いなんだとサスケは独りごちた。
「迷惑、かけてるみたいだね」
「でも、ちゃんと協力してくれてますよ。ルック、前の戦いの時に、ハルモニアの援軍、引き受けてくれましたし」
「へぇ……ハルモニア……」
リアンの言葉に、デュオンはどこか考えるようにつぶやいた。
「何でも、神官将のこと、よく知ってるみたいでしたよ。詳しいことは僕には解らないけど」
きっとわけありなんだろう。デュオンさんは知ってるのかな。
リアンはそう思いながら、少しうかがうように、デュオンの方に視線を向ける。しかしデュオンは、あいまいな微笑みを見せただけだった。
「―――じゃあ僕は一たん戻るよ」
「もう？」
思わず声を上げたリアンの頭を軽く叩くようになでると、デュオンは一人、帰路についた。
またね、と言い残して。