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Ｓｉｄｅ Ａ ３
（――ん？）
通りかかった宿の酒場で、目的とは違うが、見知った顔を見かけた。
――ビクトールと、フリック。
気もそぞろで、止まりかった思考が、僅かに動き出す。
――丁度いい。
今は、一つ、訊いてみたいことがある。
そう決めると、迷うこともなく。
真っ直ぐに二人に近付くと、挨拶もなしで、本題を切り出した。
「ビクトール、一つ聞きたい。
どうすれば、死に向かう人間を引き止めることが出来る？」
「ああ？」
「――デュオン？」
理解してない風のビクトールと、
存在を確かめるように声をかけるフリックを気にかけることもなく、
二人の横の席につく。
そして、どこを見るともなく、視線を正面に据えたまま、つぶやいた。
「ビクトールは、助けることも出来るよな。ソニアとか、シュウとか。
――どうすれば、手が届く？」
どうすれば、死に向かう人間を、止められる？
それが、今、何より訊きたいことだ。
例え手遅れだと、笑われようが。
――だがそれを問う声は、我ながら平坦で、感情が欠けていた。
その気力さえないのかも知れないが――徒、硬い真剣さだけが声音に残っていた。
「どうって、そりゃ……なぁ？」
ビクトールは困ったようにフリックを見遣ってから、
「助けようとしたから……だろう？」
単純に、そう、返した。
その答えに、微かに肩の力が抜けて、逆に表情が軽くなった。
拍子抜けした――とまでは行かないが、微かに気が抜けたような。
「――何か、あったのか？」
フリックが発した気遣うような言葉に、微かに苦笑した。
相変わらず、変な所で人が良い。
どちらかと言えば単純で、決して鋭い訳ではないと思うのだが――。
フリックのその対応は、どことなく昔を思い起こさせた。
「…………ちょっと、な……――――失くした」
上手く言葉に出来ずに、苦笑してみせる。
それだけで、大体の意味は伝わる。
何を、とは解らずとも、その持つ意味は伝わる。
「そうか……」
フリックは僅かに気まずそうにうなずいた。
だけど、たったそれだけで、僅かに――気が軽くなるのを自覚した。
――我ながら、単純だな。
それを自覚して、ため息をつく。
「――駄目だな、……二人が失くしてるのも理解してるつもりなのに。
引き止めること、出来ること、……本気で羨ましい」
そう、〝止められる〟唯、それだけで。
「……デュオン……」
「後、正直に〝扉を開けろ〟 と言えることとか」
前髪をかき上げて、二人に告げる。
「――え？」
フリックは一瞬、解らない風に聞き返したが。
「扉……あぁ」
思い当たったようで、うなずいた。
その様子を特に気に止めることもなく。
否、その余裕すらなく、唯、つぶやく。
「俺は……相変わらず、泣く事も出来ないんだ。
どうすれば……良かったんだろうな……」
それはどこか、遠くへ向けられた言葉だった――――
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