始まりの終焉（Ｓｉｄｅ Ａ ０)
崩れゆく遺跡の広間に、一つの影が佇んでいた。
「これで……よかったのか？」
その影が呟く声は、誰にも届かない。
否、足元に倒れる二つの影。
そこから生じた淡い二つの光が、
人影の周りを包むように、ふわりと動いて目の前に現れた。
〝君は、いきなよ〟
脱出しろ、と。
微かに強い語気で、そう言うのが、確かに聞こえた。
――解っている。
君が止めても止まれないと知っていた。
だから――徒立ち会っていた。
それでも自分は諦め切る事すら出来ずに、
一緒に死んでやるとも言えない。
こちら側に在なければ、引き留める可能性すら消える。
だから――踏み留まる。
例え、君達を救えなくても、それで全てを諦めて、共に逝くとは言ってやれない。
例えこの先、どんな行く末を迎えるとしても。
――それは自分のエゴで、
本当は一緒に逝ってやる方が、彼等が安らぐのだとしても。
だからこれは、自分の意志。
彼等に、背を押されたからではなくて。
だが、解っているのだろうか。
その姿が、
君達の〝死〟が、今自分にどれだけ痛手を……苦痛を与えているのか。
――否、そんなこと、気付かなくていい。
今、崩れる訳には行かない。
それだけは、解っている。
だから――
「……解ってる」
きつく眉根を寄せ、歯を噛み締める。
世界がやけに閽（くら）く見えるのは、気の所為じゃない。
だが、今崩れてはいけない。
そんなこと、ここに在る、誰一人、望まないから。
だから。
脚を踏みしめ、〝言葉〟を――力を紡ぐ。
広間が完全に瓦礫で埋まる直前に。
デュオンの姿はその場から、消えた。
……。
…………。
――足が重い。
目の前が閽（くら）く見えるのは、傾きかけた陽射しの所為だけじゃない。
胸の奥が重苦しいのは、彼等の存在の重さの所為だけじゃない。
そうだ、彼等だけの所為ではない。
今までずっと、納得し切れずに見送って来た、〝助けたい〟と願った人達の所為だ。
――自分がここに在る意味さえ見失いそうな程に。
閽（くら）く、塗り込められてしまいそうになる。
だが……。
記憶が、掠める。
かつて見知った、今、在る筈の――。
彼に、会いたい。
彼等に、会って、話したい。
――知っていて貰いたい。
本当の、ことを。
史実に塗り込められてしまうであろう、真実を。
――かつて自分が、近くで見て、知っていたように。
彼等に、本当のことを、知っておいて貰いたい。
それは、沈みかけた世界の中で、引っかかった、目的。
今の自分を支える為の、願い。
まるで、微かな、星の光のように。
重い足を引きずるように、それでも、僅かに視線を上げて。
傾き掛けた陽射しを背に。
目的の方向へと、歩き出した。
その背はやがて、地平の向こうに消えて行った――。