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違い～友情の定義～
デュオンとルックが、仲違いから復帰して間もなくの頃。（それぞれの応え編４～６参照）
デュオンが石版の上、ホールに据え置かれた守護神像の台座から石版を眺めていた。
「何してるのさ」
不審な行動をルックが問いただすと。
「ああ、ちょっとね……」
上から石版を見てたんだと、デュオンは答えにならない答えを返した。
「何それ」
デュオンはそれには答えずに話しを変えた。
「フッチはさ、街道の村で友達が出来てたみたいじゃない？ ブラックの鱗を託せる程の。あの新しい竜のことも含めて、僕にはそんな立ち直り方は出来そうにないから」
デュオンはそう言いながら石版の前に降りて来た。この話題と石版を上から眺めていたことと、何の関係があるのか全く解らないが。取りあえずルックは話題に応じた。
「あぁ、あのネーミングセンスの悪い竜？ 気にしなくていいんじゃない？」
「ルックは『友達』ってどう思う？」
「僕には必要ないよ」
「ふぅん」
デュオンは意外そうな様子もなく相づちを打つ。
「……あんたはどうなの？」
ルックがデュオンに逆に問い返すと。
「僕？ 僕は……正直言って良く解らない。大切な者は知らず知らず増えて……でも『親友』と呼べるのは彼しかいないって思い知らされる」
「……」
――だろうな。
かつて垣間見た、彼等の様子が頭の隅を過ぎる。デュオンは言葉を続けた。
「ルックのことは信用してるし信頼もしてる。だけど友人て言うより、人生観のライバルみたいな所があるからなぁ」
「はあ、もういいよ」
親友馬鹿のこいつに訊いたのが間違いだった。別に友人としての答えを期待していたわけじゃない。
「フッチみたいに、新しい友達が要らないとか思ってるつもりはないんだけど、やっぱりそうなのかな。あんな風に〝生き方を変えても良いと思う程の存在〟は、もう手に入らないのかな……」
デュオンは少し遠い眼をして言葉をつづる。
「知らないよ、そんなこと僕に訊かないでよね」
ルックがそう言うと、デュオンは少し困った様子で。
「他にこんなこと話せる人いないんだよ。……僕自身だって何とかしたいとは思ってるんだけど……。お陰で君を怒らせちゃったしさ」
「……無理に……」
「え？」
つぶやいた言葉に、デュオンが反応して振り返る。ルックはそれに構わず言葉を告げた。
「無理に立ち直る必要もないんじゃないか。親友殿に真っ直ぐな君……嫌いじゃないよ。自分はそうじゃないって言われるのは腹は立つけど」
ルックは友達など要らないと思っているし、そう言っていたけれど。いざ〝友達じゃない〟と言われてみると、なぜか多少かんにさわるのだ。理由は本人にも解らないのだが。
それを聞いたデュオンは、少し済まなそうに謝った。
「ご、ごめん……君が最も大事な部類に入るのは確かなんだけど」
「もういいよ」
投げやりなルックの言葉に、デュオンは大きく溜め息をついて、壁に背を預けた。
「もっと余裕があればいいんだけどな。君のことも本当は色々気になってるんだよ？ ササライとかハルモニアとか十年程前とか」
そう言って、デュオンは横目で顔を覗き込んで来る。
「やっぱり探偵使ってたのはあんたか」
最近気配を感じると思ったら。
だがデュオンは軽く首を横に振った。
「いや、リアンに便乗させて貰っただけだよ。――〝外〟から何も解らないことが解ればそれで良かったんだ」
「どういう意味」
ルックが問い返すと。
「そのままの意味だよ。〝外〟から簡単に解るようじゃ困るんだろう？」
「……何解ったような口きいてるのさ」
その言葉にデュオンは一度、言葉を切って。
「ササライは何も知らないんだな」
そう、言った。
「！ 逢ったのか」
「うん、偶然。やっぱり何も解らなかったけどね。僕は本人から聞きたいんだ」
その真っ直ぐな視線を避けるように、ルックは前を向いた。
「……今は言えないよ」
するとデュオンは案外あっさりとうなずいた。
「うん、僕も今の俺じゃ駄目だと思うから。言わなくてもいいよ。そのうち、君が動く時に立ち会わせてくれれば」
デュオンの言葉に、ルックは急いでストップをかける。
「ちょっと、勝手に決めないでくれる？ 何で僕が動くことになってて、君が付いて来ることになってるんだ」
「あれ、違った？」
「……」
侮れない。
「だからさ、〝友達〟の定義に当てはまらないとしても、仲良くしようよ、ルック」
「め・い・わ・く・だ！」
「そんな力一杯否定しなくても……」
デュオンは少し困ったように眉を寄せる。
「だけど君はリアンと関わることを決めたんだろう？ 今はそれでいいんじゃないの？ 僕には迷惑だけどね」
「ルック……そうだね、ありがとう。この戦いが終わったら……何かが変わるのかな」
「さぁ？」
僕に訊かれても。
「答え、見付かるといいよな」
「馬鹿じゃないの」
ルックはそう突き放した。
デュオンの抱える問題は、そう簡単に答えが出るものだとは思えない。例えこの戦いが終わったとしても。問題が何なのか、具体的には知らないが。どうせ、紋章か宿星がらみと言った所だろう。
デュオンはうつむきがちに、ゆるく微笑んだ。
「今は馬鹿になりたいんだ。じゃないと、前を向けない」
「……」
そう言われると、言葉に困る。するとその沈黙を破ってデュオンが笑う。
「やっぱりルックはいい奴だな」
「何が」
「そう言う所が。いつも君が見抜いてくれてたんだよ。僕が一番辛い時も、今も」
過去形じゃない。つまりはそう言うことなのだろう。仮にもソウルイーター持ちなのだから、無理もないかも知れないが。
ルックはため息をつきながらも言った。
「相変わらずだね、でも……君のそう言う馬鹿な所、嫌いじゃないよ」
デュオンはいつだって自分の予測を超えて見せた。リーダーだった頃も、今も。親友殿をなくした時に見せた、暗い暗い瞳。三年前の戦いの後、世界の終わりみたいな目をして故郷を後にして、もう戻ってくることなどないと思っていたのに。
今は、以前に似た強気な微笑みさえかいま見せるほどに、変わっていた。
だから例えデュオンが自分を友人とは呼ばなくても。他のどんな定義にも当てはめられずに、僕への応えを出せなかったとしても。構わない。君は君のままでいい。そう思うのはなぜだろう。
「めずらしいな、そんな風に言ってくれるなんて。――感謝してるよ、本気で。ここに来られるのは君のお陰だ」
臆面もなく、デュオンはそう言った。
「はぁ、もう勝手にしなよ」
もう反論する気も失せて、さじを投げた風にルックがそう言うと。
「ああ、ありがとうルック」
デュオンの綺麗な微笑みが返った。
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