（P5)
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Ｓｉｄｅ Ｂ 五（＆ Ａｓｉｄｅ）
「――ルック」
宿を一歩出た所で、たった今中で見た顔に 【外から】 呼び止められた。
「！ 君達――」
ルックは振り向くと足を止める。木影から姿を見せた人影。
――リアンとジョウイ。
何故、ここに……。
リアンがルックに向かってうなずく。
「うん、デュオンさんのこと、だよね。今の僕達なら答えられるから――会いに来た」
真っ直ぐこちらを見据える。
「いつから？」
「え？ 今さっき……じゃなくて、少し未来から？」
〝いつからここに在たのか〟と〝いつの時間から来たのか〟
〝いつから〟 の意味を計りかねたらしいリアンは両方の意味を答えた。
（少し未来……か）
特にその言葉にはこだわらずに本題を訊く。
「そうか……で、あいつに何があった？」
「それが……――もう一人のデュオンさんが現れて、……戦って……」
リアンは言い難そうに言葉を繋ぐ。
「……デュオンさんは、止めようと……」
ルックは顔をしかめて。
「――今の『もう一人のあいつ』って言うのは別の時間から来ていたのか？ 今の、君等のように」
「あ、ううん。あれは……」
リアンはかぶりを振って。
「僕には良く解らなかったけど、デュオンさんが言ってた。あれは、ソウルイーターではなくて、デュオンさんの闇だって」
「あいつの……？」
「…………」
リアンは痛みを湛えた瞳でルックを見据えた。
そして告げる。決定的な言葉を。
「――ルックを失くしたことで生まれた、デュオンさん自身の闇だって」
「――！」
言葉が無い。
馬鹿な……。
リアンは言葉を募（つの）る。一つ一つ、区切る様にして。
「デュオンさん、言ってた。ルックが鍵だって。自分が、人で在る為に。
――デュオンさんは、絶対、僕達や、皆や世界……色んな物を見捨てはしなかった。
切り捨てたら、それはきっとデュオンさんじゃないんだ。
だけど、僕には解る。
それでも、自分に取って、大事な人達を助けられないなら、そんな自分、意味がないんだ……！！」
「…………」
「会ったんでしょう？ あの後の『デュオンさん』に！ 何て言ったの？」
「……」
彼の言葉。
〝全部許してる〟
〝どうか――『死なないで』〟
「……馬鹿な……」
囁く程の声でつぶやき、ふとあることに気付く。
「――君達は、何をしたんだ？」
ふいに二人に視線を向けた。
「彼を――止められなかったのか」
鋭く、冷たい程の眼差しが二人を見据えた。
その鋭さを持つ言葉に、リアンの瞳がピクッと震えた。
ジョウイが、リアンを庇う様に沈黙を破り、言葉を紡ぐ。
「もう一人のマクドールさんを攻撃すると、マクドールさんも同じ傷を負った」
静かに視線を送る。
「リアンの盾の光さえ、彼には……」
リアンはかすかに苦い表情を見せた。
「まさか、僕の盾がデュオンさんを苦しめるなんて」
「……どう言うことなんだ」
ルックの言葉にリアンはかぶりを振る。
「……駄目なんだよ。〝闇〟を消したって、デュオンさんは救われないんだ。
もう一人のデュオンさん……あの闇も〝デュオンさん〟 だったから」
「…………」
「闇も全部含めて〝デュオンさん〟なんだ。守れなかった自分も、世界も全部要らないって……言われた」
さすがに少し辛そうに、リアンは言う。
「彼が……それを言ったのか……」
彼が自分からそんな台詞を言う……想像がつかない。しかも、それを言わせたのは自分だと言うのか。
彼は言わなかった。
何時だってその可能性を指摘していたのは自分だった。
彼の本音、自分の感情を偽っている時は、嫌でも見えた。
そして、指摘された彼は言う。
「それでも、どうでもいいなんて、言えないんだ。仲間なんて、どうでもいいなんて、どうしても思えない。……そう思える方が、楽だったかも知れなかったけど」
かすかに苦笑するように瞳を細めた表情。
馬鹿だと、思った。
だけど、デュオンらしい言葉。
変わってしまうのか？ 時のせいではなく……。
「君達でも……駄目なのか」
すると、リアンはあっさりと、だが真剣な眼差しを返す。
「今回、デュオンさんが向かう先に在たのは、ルックだったから。
――十五年前、僕の向き合う先に、ジョウイが在たみたいに。だから、そんな時、僕達に出来ることなんて、一つしかないんだ」
傍に在て、支えること、……それさえ遅すぎたけれど。
「――ルックは、何を望むの？ 風を消して、その先に何を望む？」
（――僕は、あの人の願いを繋ぎたい）
「…………」
彼等に言うべきか？ …………。
ルックが考えている間に、リアンが再び口を開いた。
「僕は、デュオンさんに叶えて欲しい。今なら、未だ間に合う。
今なら、ルックとデュオンさんが在る。変えられる筈だよ。だから……伝えに来た」
その言葉はデュオンを思い起こさせた。
親友殿に伝えたいと 過去の世界で彼の元へ引き返して行った彼。
「今の僕達に出来るのは、この位でしかないけど、――ルックなら、変えられるよ」
真っ直ぐに向かう眼差し。だけど。
「――変える？ どうやって」
思わず懐疑的（かいぎてき）な口調で返す。
何が変えられると言うのか。
しかし、リアンは明るく、
「――簡単だよ。僕達の所に怒鳴り込んで来た気持ちを、少しでいい、デュオンさんに見せて。
一人で背負わないで。紋章に……負けないでよ」
「…………」
それは、酷く重い言葉。
だが……。
「…………考えて、おくよ……」
絞る様に、それだけを返した。
「君達に……会うことなどないと思っていたのにな……」
「――ルック？」
ルックはスッと建物と木の死角へと入った。
そして、リアンが眼を向けた瞬間、ルックの姿は風と共に消え去っていた……。
「……大丈夫、か？」
ルックが消えた場所を眺めて、ジョウイが訊く。
「多分ね。……それより僕達どうやって帰ればいいんだろう。……ルックに訊けば良かったかな」
「……」
そんな余裕な状況ではなかった気がする。
「デュオンさんに、訊こうか。……もうすぐ来るよね」
「その筈だけど、あの人が帰る方法を知っている？」
「断言は出来ないけど、違う時間に行ったことがあるデュオンさんなら、何か答えてくれると思う」
「そうだな……」
二人は再び宿の側の木陰に陣取ると、人目を避けて彼を待った。