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Ｓｉｄｅ Ｂ 三
ルックが宿から戻ると、そこにデュオンが在た。
ルックは告げる。
「一つ、訊きたい」
ルックを見たデュオンの眼は、いつもと同じだ。
「十五年前を覚えている？」
「全部とは言わないが……覚えている」
デュオンはそう答えた。
「あの時、君が渡したイヤリング」
「ああ、緑のヤツか」
覚えているらしいデュオンがうなずく。
「あれ、渡されたのは一つだけだったけど、実は他にも同じ物を作ってたりするのか？」
「？ いや、あれは一つきりだ。他にはない」
質問の意図が解らず、デュオンは首を傾げた。
「そう、解った」
「どうかしたのか？」
「……」
彼がそう言う以上、イヤリングは一つだ。
そして、ここにある二つは、恐らくは、〝同じ物〟。
ここにデュオンが在ることが、その証。
あの時のデュオンは、恐らく別の時間から来たのだ。それも、恐らくここより未来から。
――昔、自分も違う時間へ飛ばされた経験があった。あり得ないことではない。
そして、過去の彼が消えたのなら、今、ここに彼は在ない。
「…………」
ルックはデュオンを眺める。
あの時、この気配にさえ、気付けない程、動揺していたとは。
この世界に在る、彼の気配。
彼は、もう一人の自分に気付いただろうか？
ルックはその考えを頭で打ち消した。
あの時の彼は、ほとんど気配がなかった。
今見る限り、眼の前の彼に、あの時の面影はなかった。
未来のことを、この世界のリアン達に聞いたところで解る筈がない。
そして、このイヤリングを未来の彼が持っていたと言うこと。
僕から彼に渡ったと考えるのが自然だが……
どんな状況でかは、あまり考えたくはなかった。過去の自分に渡せと、自分が言う筈はないのだから。
彼をあそこまでさせるなんて、一体、未来に何があったのだろう。
大陸さえ、世界さえ、滅ぶとしても、滅びずに済むと思っていたのに。
Ｓｉｄｅ Ａ 二
「デュオンさん……」
彼が闇の中に消えた場所で、リアンは呆然と佇む。
「どこに……ううん、『いつ』に行ったんだろう」
「『いつ』って……時間を超えた、……って言うのか？」
ジョウイの言葉に、リアンはうなずく。
「きっと。――昔、違う時間に飛ばされたことがあるって行ってた。その時は、デュオンさんの所為じゃなかったみたいだけど、でも、もしかしたら、今のデュオンさんなら」
「もし、そうだとしたら……どうなるんだ？」
ジョウイの問いに、リアンは首を振って。
「……解らないけど。会いに行ったんだと思う……」
「あの、ルックという名の人に？」
「うん、ジョウイは覚えてる？ 何度か、顔を合わせてる筈なんだけど」
ジョウイは少し済まなそうに答えた。
「――ごめん、あまり覚えていないんだ。――敵方の魔法兵団長、位にしか」
「忙しかったし、随分前だもんね。……で、デュオンさん、いつに向かうと思う？」
リアンは「忙しかった」と、あっさり十五年前を口にした。
「彼に会いに行く以上、少なくても〝彼〟が在る時間……過去だとは思うんだけど」
「……とは言っても、僕は彼とはほとんど面識がないしな……」
「うん……」
リアンは記憶を探る。何か――
「！！」
その時、閃く記憶があった。
「――もしかしたら」
「何？」
「ほら、覚えてる？ 一度だけ〝彼〟が僕達に会いに来た時のこと。――宿にいた時」
「――ああ」
ジョウイにも思い当たる。
「あの時の彼の取り乱し方、あれがもし、『今の状態のデュオンさん』を見た所為だったとしたら……」
『あいつに何があった……！』と、詰め寄って来た、彼。
「あの時デュオンさんは〝彼〟に会ってたんだ」
「――他に思い当たる時間は？」
「ない、と思う。――僕が覚えてる限りでは」
「そうか……で、今の推測が正しいとしたら……どうする？」
ジョウイの問いに、リアンは真剣な声音で答えた。
「……伝えなくちゃ、ルックに」
「え？」
「ルックに、会いに行く」
「〝彼〟に？ マクドールさんではなくて？」
リアンはうなずく。
「うん、ルックに。今の僕達になら、答えられる。デュオンさんに、何があったか。――伝えなきゃ。デュオンさんはルックのこと、〝変えたい〟 って言ってた。――だから、……きっと」
必要だと思う。変えたいのはきっと、〝失うこと〟……。自分や、ルック自身にも、つながる想いの筈だから。
「リアン」
「あの時、デュオンさんは諦めてなんかいなかった。だから、僕、諦めないよ。絶対。……あの人に……叶えて欲しい」
「…………」
こんな時、リアンは時々、酷く頑固になる。十五年前、僕の命を繋いでみせたように。
「とにかく、街とかで情報集めてみようよ。絶対やり方はある筈だから。――いい方法、見つけなきゃ」
そう きっぱりと、リアンは言った。