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Ｓｉｄｅ Ｂ 一
目の前にデュオンが現れた。
しかし 様子が変だ。生気が感じられない。
まるで――どこかで見たような……。
思い出せない感覚に、ルックは眉をしかめた。
デュオンはルックを見て、微笑った。
それは何故か儚く、デュオンに似合わない。
デュオンの手がルックの頬に伸びた。
ルックは訝る様に少し眼を上げたが、デュオンはルックを正面から見詰めた。
「僕の、本心を君に……。――――全部許してる。だから……」
デュオンの手が、ルックの手を包んだ。
「どうか……『死なないで』」
最後の言葉は、ためらいを感じさせて、ささやく程低く、だが、願いを込めるように 確かに強く耳元に響く。
「…………」
返せる言葉もなく、唇を引き結ぶ。
すると ふいに、どっとデュオンの体重が肩にかかった。
次の瞬間。
デュオンの姿はバサリと崩れ、消えて行った。
「え……」
そして、手の中には。
見覚えある 緑の装飾品。
「――！！」
その意味を考える間も無く、ルックは空間を飛んだ。
Ｓｉｄｅ Ｂ 二 （Ｂｅｆｏｒｅ ａ ｌｉｔｔｌｅ．）
「マクドールさん？」
街の中で以前と変わらぬ姿を見かけて、ジョウイは声をかけた。
振り向いたデュオンは少し目を見開いた。
「！ ……君は……」
「お久し振りです。覚えていますか？」
デュオンは少し眉を寄せた。
「君は……ジョウイ……だよね」
本当は、確かめる必要もなかった。姿は変わっても、その眼と紋章の気配は同じだったから。
徒、その違いに驚いただけ。
「ええ」
「君は、どうしてここに？」
ジョウイは以前とは比べられない程、軽やかな表情を見せた。
「旅の途中です、あれからずっと……」
「……そうか……」
「今、ナナミはキャロの方に戻っているんですよ。……時々、里恋しくなるみたいで。僕達はまだ……あれから戻ってはいませんが」
「……戻りたいか？」
その問いにジョウイは緩く首を横に振った。
「……僕はあまり……。彼等の存在があれば、場所はそれ程こだわらないようなので」
「……」
「リアンに、会いますか？」
ジョウイの言葉に、デュオンは少しためらいを見せた。
「……いや、止めておくよ」
「？ 何故……」
予想外の反応にジョウイが問いを返すと、デュオンは少しだけ哀し気な瞳を向けた。
「君達の時間は……動いているんだね……」
「！！」
気にしていたのだろうか、と固まったジョウイに、デュオンは少し苦笑じみた表情で、
「いや……本来は大して気にしてないんだ。徒、僕は未だ……自分の希みを叶えられていないから……」
今会いに行くと少し羨ましいから、とデュオンは眼を細めて言った。
「そうですか……」
リアンを羨ましいと思う気持ちは、ジョウイ自身覚えがある。
それを目の前のこの人は、肯定していた。
羨ましいと思うのは、自分の中に、未だ捨て切れない希みがあるからだ、と。
「叶うといいですね」
「……ありがとう」
「じゃあ、僕はこれで」
二人が別れを告げようとした その時。
「あ、ジョウイ！ ……あれ、デュオンさん！？」
当の本人が走り寄って来てしまった。
以前の面影のままの茶色の髪と眼差しに、デュオンは一瞬目を見開いた。
「――！」
「……宿に戻ったんじゃなかったのか？」
「そう思ったんだけど、ナナミに頼まれてたの忘れてて」
と、ジョウイにメモを見せた。
ジョウイがデュオンを見ると、デュオンもジョウイを見た。
「…………ぷっ」
ちょっとした沈黙の後、どちらともなく、仕方ないと言った風に、顔を見合わせたまま、微笑が起こった。
「え？ 何？」
「いや、君らしい登場だからね……」
ジョウイが言う。
「……？」
「僕は……グラスランドに行くよ」
ふいに、デュオンが言った。
「？ 何か用事でも？」
「行かなきゃ、ならないんだ」
「そうですか……」
静かな言葉に、彼の〝希み〟 に関わることかも知れないと、ジョウイは思い、それだけを返した。
「もう、行っちゃうんですか？ 少し、話せませんか？」
リアンの言葉に、デュオンは少しとまどった後、表情を緩めてうなずく。
その後、三人は、他愛ない話をひとしきりした後、別れを告げた。
そして、それからしばらく経ったある日。
二人が在た宿の一室に突然現れた、若者。
「あいつに何があった……！！」
入るなり鋭く問いただす。
「え？！」
茶色を基調とした動きやすそうな服に短い髪。
服装とイメージは大分違っていたけど、リアンはその顔に見覚えがあった。
「……誰だ！？」
警戒するジョウイをリアンが制した。
「……ルック？ ルックだよね？」
驚きつつ、その顔を見て確認する。
「とぼけるな、君等がついてたんじゃないのか！？」
「――ちょっと待ってよ、何のこと！？ ついてたって……」
とまどうリアンにルックは告げる。
「だからあいつ、デュオン＝マクドールだよ」
「デュオンさん？ ……こないだ会ったけど、別に……」
「何もなかったのか？」
「何かあったの、ルックの方なんじゃないの？」
「……」
見返すリアンの瞳。彼の言葉に冷静さを取り戻す。
「彼はグラスランドに向かう予定のようでしたが、別段何もなかったですよ」
ジョウイも口を添える。
「じゃあ、何もなかったと言うのか」
ルックは改めて手の中を見る。
透明な、緑のイヤリング。
これは昔、十五年前の戦いがあった時に、あいつから渡されたのと、同じ物だ。
だが……
ルックはポケットからもう一つ、イヤリングを取り出す。
あの時、渡されたのは、こっちだ。
どちらも、それぞれに通してある鎖までそっくり同じだ。
イヤリングだけなら、彼の方が複数作っていたと考えるのが自然だ。だが、この鎖に関しては自前だ。同じ物をデュオンが入手したとは考えにくい。
だとしたら……どういう意味になる？
まさか……。――――だとしたら。
ルックは眼を閉じて辺りを探る。
そして、ある気配を捉えた。
「…………」
「ルック？」
顔を上げたルックに、リアンが声をかける。
「いや、君等の言う通りだ。気にしないでくれ」
「え？」
「気にするなって……」
ルックはさっさと出て行ってしまった。
「リアン……何だったんだ今のは」
「うーん……」
その問いにリアンも首をひねった。