（P２３)
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Ｓｉｄｅ Ｂ 三十三
「――デュオン、これを」
ルックが差し出したのは、緑の輝き。
――イヤリングを鎖に通した物。
「！ それ……持ってたのか」
「それは、こっちだ」
ルックは、左手にもう一つ取り出した。
「？ 同じ物が……二つ……」
あれは一つきりの筈だ。
唐突に、記憶が掠める。
ルックに、作ったのは一つかと、訊かれた。
「！ ってことは、それ、君がもう一つ作ったとかいう訳じゃないんだな」
――あれは、そういう意味だったのか。
確認するような言葉に、ルックはうなずく。
「ああ。恐らくこの二つは同じ物の筈だ。徒、時間軸が違う」
「どういう意味だ」
「これを持っていたのは、恐らく、未来の君だ」
「未来……」
未来の僕？
ルックは、片方を差し出した。
「これは、返すよ。――本来は〝君〟ではないのだろうけど」
消えてしまった彼の物だ。
――もう、自分が預かる必要もない。
デュオンが手を伸ばし、緑の石に触れる。
その、瞬間。
魔法の光が周囲に広がる。
「っ！」
何かが弾けて、塞を切ったように、記憶と映像が流れ込んだ。
――――世界に、自分に絶望し、紋章や未来と引き換えに、自分の全ても消そうと思った。
そして、宿星達に敗れ、妹弟子を道連れに、この世を去った自分の記憶。
それから、全てを知って、止めなかったデュオンの姿。
ルックは眉をしかめた。
「！！」
デュオンは一瞬身を引きかけた。
――――ルックを失くし、自分も又、闇へと消えた。
選ばれなかった記憶。
痛みと、失望、そして、痛い程の望み。
――思い出した。何もかも。
「……そうか……そうだった……」
置いて逝かれる辛さを知るからこそ、誰かに背負わせることなどしたくないと思っていたのに。
一番やりたくないことを、自分はやった。
「……！」
リアンの中に、少し違う記憶が流れる。
違う記憶、だけど、
同じ願い、同じ望み。
諦めないと、望む。
もう一つの記憶は、しっくりと自分になじんだ。
「……！？」
ジョウイは僅かに眼を見開く。
自分は見ていないマクドールさんの姿。
そして、もう一人の自分の疑問。
――あの存在をどう思っていた？
……答えは、自分の中に在った。
「……おい……何があったのか全っ然解んねーぞ……」
テッドが一人不満そうにぼやいた。
……ずっとソウルイーターの住人だったのだから、無理もない。
「…………」
セラは何も言わず、徒、そのまま佇んでいた。
僅かに憂いが見えるのは、気の所為だろうか。
「……今のは……」
「……これ、俺のじゃないな……」
デュオンが鎖を手に取る。
「ルック……俺……」
もう一つの記憶の所為か、辛そうに眼差しが揺れる。
「……言わなくていい」
「けど……！」
デュオンに向けた、僅かに突き放した眼差しは、真剣な色彩を帯びた。
「僕が動いたのは、君が命を捨てたからじゃない。君が、何んな状況でも、諦めていなかったからだ」
「――ルック――」
気付いていたのか。
僕は、死んでもいいと思うより、共に生きたいと、望む。
だから、絶対、一緒に死んでやるなんて、言わない。
例え、結果がどうであっても。
それは、もう一人の自分の気持ちだ。
「ごめん……」
「今の君が言う必要ないだろう」
「でも――あ」
ふいにデュオンは手許に視線を落とす。
「どうした？」
テッドが問う。
「これ……返さないと」
緑の装飾品。本来の持ち主に。
「返すって――」
「ちょっと行って来る！」
デュオンの姿が闇の中に消える。
「おい！ ……どこへだ？」
テッドが目をしばたかせる。
気配が消えたぞ。
「僕達も連れて行ってくれればいいのに」
リアンの言葉にルックが答える。
「あの紋章は人を連れて飛べる物じゃないよ」
「そう、なんだ。――喰べられちゃう、とか？」
「さぁね、負担がかかるのは確かだろ。――親友殿なら何とか出来るかも知れないけどね……」
「どうだろ、やったことはねーけど」
「…………」
ルックが意味ありげな――とても好意的とは言えない視線をテッドに向けた。
「何だよ」
「君が何かすると、常にこっちがとばっちりを喰らうんだよ」
「は？」
「最も君は、〝自分が死んだ後〟のことなんか、どうでも良かったんだろうけど」
「う゛っ」
八つ当たりに近いルックの言葉に、テッドは絶句した――――。
Ｓｉｄｅ Ｂ 三十四（＆ Ａｓｉｄｅ）
街から出た所で、再び後ろから声がかけられた。
「待ってくれ」
「――デュオンさん」
「これを――持って行ってくれ」
デュオンさんは鎖に通した緑のイヤリングを差し出す。
「これは……？」
気の所為か、どこかで見たような気もする。
「君達なら、きっとわかる。――君達が持っていれば、それは本来の場所へ戻ると思う」
「――？」
リアンの手に、イヤリングが渡される。
（君達は確かに、僕達に届いたんだ。だから――）
デュオンは二人に向かって微笑む。
（君達の世界が変わることを願っている。正しいことが常に誰かを救うとは限らないから――）
「さようなら、二人共。――――また、会おう」
「――！」
別れの言葉に続けられた、それは、約束の言葉。
リアンは息を呑み、眼を細めた。
（――例え、過去のこの人だとしても、願いと――希みを込めて）
「――はい」
リアンはうなずいた。
「じゃあ」
デュオンは街へと踵を返した。
「……行こう、リアン」
「――うん」
Ｓｉｄｅ Ｂ 三十五
闇を纏（まと）い、デュオンが戻った。
「――どこ行ってたんだ？」
テッドが問う。
「うん――テッド、覚えてる？ 風の紋章の内側で見た、僕と同じ姿で、壁の通路を開いた人」
「あ――こいつの幻が在た所な」
テッドがルックを指す。ルックは不信気な眼差し。
「そう。――あれが、あのイヤリングの本当の持ち主なんだ」
「持ち主？」
僅かにデュオンの声のトーンが落ちる。
「あれは……ルックを失くした僕。……会ってたんだ」
「！？ 何で又……」
「……わからない」
けど、あいつが在なければ、上手く行ったかわからない。
自分の筈だけど、自分ではない……。
「――僕が彼に会っていたからだろう」
ルックの言葉。
「……あ」
「ルック……」
ルックが淡々と告げる。
「そう、あれが持ち主だよ」
（正確には、消えた僕から渡ったのだろうけど）
ルックがデュオンに訊ねる。
「あれ、誰に渡した？ ――未来から来ていたリアン達にか」
「――うん」
「もう一人の自分、か……ちょっと変な感じかな」
リアンのつぶやきにルックが告げた。
「まぁ、あの石に記憶された分しか、記憶は流れて来なかっただろうから」
「あー、そっか……どうなったかな……」
少し遠いリアンの言葉。
「さぁ、ね……」
ルックはそれだけを返した。