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Ｓｉｄｅ Ｂ 十三 (風Ｓｉｄｅ)
――何故、思うようにならないのか――
人払いした部屋で、人知れず息をつく。
テーブルに肘をついて視線を伏せた。
幾度と無く障害が入り、遠回りをするハメになった。
少数精鋭で動いている分、負担は多い。
――最初から判って選んだことだ。
そして――後僅かだ。こちらも引けない。
（――予定外、か――）
ふと、違う思考がよぎった。
……結局あいつは最後まで目を逸らし続けるつもりか……？
――真実を突き付けてなお。
計画を前倒して奴（ササライ）に告げた真実。
だがやはり、奴はそれを見ようとしなかった。
ぎり、と苛立ちと共にきつく目を閉ざす。
動いていれば考えずにいたものを。
今さらながら思い出してしまう。
――考えても詮無いことだ。
そう思い切り、ふと顔を上げる。
「――！！」
こちらにかかる影にハッとして振り返った。
見知った――だが、こちらのメンバーではない存在が立っていた。
デュオンだ。
「――君か……」
少し眉を寄せたままつぶやく。
作戦の合間を狙うように姿を見せるその存在に、今さら何か言う気も起きない。
彼が声をかけた。
「疲れてるな。……それとも考えごとか」
「いや、何でもない」
「そう……」
本当は彼には多少気付いている部分があるのだろうけれど。
そう言い捨てると、向こうもそんなこちらを気にする風でもなく、歩いて来る。
「――？」
気の所為か？
いつもと、まとう闇の濃さが違う気がする。
目の前に在るのは確かに彼だが……
「――ルック」
彼は正面からこちらを見据えた。
閽（くら）い闇の中にどこか光を宿した瞳――。
視線が痛い程。
真剣さを含んでいる。
「――十五年前、訊かずにいたことを、今、訊かせてくれないか、―――頼む」
「…………」
「君の――――生まれのこと、故郷を離れた経緯を、教えてくれ」
紡ぐ言葉に躊躇いを感じさせながらも、デュオンは視線を外さない。
「――知らない方がいい」
君に、見せたくはない。
首を横に振り、視線を外した。
だが彼も、簡単に引きはしない。
「今なら迷わない。――時間が無いんだ。認めたくはないけど……多分、僕にも」
「――どういう意味」
かすかに眉をひそめ、問い返す。
「そのままの意味だよ。――君は知ってるんじゃないのか？
……リアンに聞いたよ。君が宿に怒鳴り込んで来たって」
「！」
……今までとは違う質の息をつく。
リアンがデュオンに懐いていたのは知っていたのに。
明らかに自分の所為（ミス）だ。
「……で、君は原因を知ってるのか？」
「……それは知らない。多分僕と君は別ルートで、今より先を知ったんじゃないのか？」
知らずとも、大体当たり、か。
「――で、君はどうやって？」
「――人に聞いた。……ルックは？」
「……」
目の前で、と言う代わりに、半眼の視線を返した。
「――ルック？……もしかして……何か嫌な予感がするな……
――解った。それは訊かないでおくよ。――現実にしたくないから」
デュオンはこっちを見てあれこれつぶやくと、引き下がった。
「――この命、誰にも背負わせたくなんかないんだ」
彼は思い詰めた口調でそう告げる。
「――重いから」
「――――」
全くだ。
「こうなったら、意地でも変えなきゃな。
――ルック。俺、ずっと迷ってた。――気付いてたと、思うけど。
自分のことばっかり、気にかかって。君が、平気そうに見えて、そのことに、甘えてた。
もう、訊かずに、後悔したくないんだ。何も出来ずに後悔するなら、何かして、後悔したい。
――真実を……知りたいんだ。俺、どうしても、紋章の所為だけとは思えないんだ」
「…………」
簡単に誤魔化せるような相手ではないか……。
リアンの言葉が脳裏を過る。
〝その気持ちを、少しでいい、デュオンさんに見せて〟
彼が言葉を重ねる。
「ルック、頼む」
「何故、そこまで見たい？」
「それは……敵でも味方でも、ルックと本当に向き合っていたいから」
――一体何れ程の人間がその言葉を口にするだろう。
彼等は常に真っ直ぐに視線を向けて来る。
「……判った」
（――それに、既に奴には見せているしな……）
鞄から、球形の器を取り出す。中身は入っていない。付属品を除けば、完全な球体だ。
――――封印球。
ただし、通常の紋章のものではない。
それを片手に乗せる。
「これが、〝真の紋章を閉じ込める為の器〟だ。――見たことあるだろ？」
――相手がうなずくのを確認する。
「〝忌まわしきハルモニアの秘術〟だ」
真意を問う様にデュオンが眉を寄せた。
「紋章を封じ込める技術が、か？」
「その理由は……これだよ」
もう一つの〝器〟を鞄から出してデュオンの目前に差し出す。
「…………！！」
それを見たデュオンの眼が見開かれた――。