(P2)
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「――リアン」
デュオンが呟く様に其の名を告げる。
デュオンの右手が、そしてロッドを構えたルックからも、紋章特有の音が広がる。
細く……そして正確に相手の許へと。
――リ ア ン――
「！」
頭の中を通り過ぎた声に、リアンはハッとして顔を上げた。
今の……
「……デュオンさん？」
リアンは手袋を外して、自分の右手を見る。
……呼んでる……
リアンは右手を上げて応えた。
ふわりとした大気の動きと共に紋章特有の音が軽く広がった。
すると其処に四人の人間がテレポートして来た。
その内一人は空中でバランスを崩し、地面に転がって手を付いた。
「～～～～またやりやがったな！」
「何の事？」
ルックはしれっと答える。
「とぼけんな！ お前なぁ……！」
何時かのごとく言い争いを始めた二人を完全無視して、デュオンはリアンに話し掛けた。
「リアン……久しぶりだね」
「デュオンさん、如何かしたんですか？」
「君に……頼みたい事があるんだ。ああその前に……」
デュオンは向こうで〝だからガキって言うな！〟とがなっている少年を指さして、
「紹介するよ、あそこでルックとモメてるのがテッド。前に話した僕の〝友人〟だよ」
「あ……それってもしかして、〝自らソウルイーターに喰われた〟って人ですか？」
「そうだよ、取り戻したんだ」
だがその割りには浮かない顔だ。
「何か問題が？」
「彼は此の紋章を引き受けると言って聞かなかった。けど、僕は彼一人に背負わせたくは無かった。――もう彼一人の問題でも無いしね」
デュオンは一度、言葉を切って。
「一度強引に紋章を封印して手放そうとした事もあったけれど、僕達は他の誰かが其れを宿すのを黙って見守れる程淡泊じゃないし、何より、テッドとグレミオの魂は、未だその〝力〟と共にソウルイーターに捕らわれたままだった……」
「……そんな」
すると、いつの間に言い争いを止めたのか、テッドの手がデュオンの肩に置かれた。
「その可能性も解ってた事だろ。俺は後悔なんかしてないぞ？」
デュオンは平坦な声で口を開いた。
「――僕はいつか、この紋章の呪縛を解いて、捕らわれた魂達全て――解放したい」
「だけど俺は、其の時お前を独りにしたくないんだ……！」
テッドは真面目な表情で続けた。
「お前が俺を呼んだ。お前が其の紋章の意義を変えた。其の闇は徒閽（くら）いだけじゃないと、俺達を繋ぐ絆だと、そう言ったのは――お前だ。俺に――お前の傍に在られる〝力〟をくれ……デュオン！」
「……テッド……」
デュオンは拳を握った。
「何が正しいかは……解らない。けど僕も……テッドと一緒に在たい。独りで宿すよりも……選びたい。力を貸してくれないか……リアン……」
リアンは其の言葉に一年程前の事に思いを馳せた。
もしかして、あの時ジョウイも、こんな風に共に在る事を望んでくれてたのかな……
「解りました、ジョウイも呼んで来ます」
「ああ、助かるよ」
近くに在たらしい、ジョウイが合流した。
「デュオンさん……で、具体的には如何すれば？」
リアンの言葉にデュオンは答える。
「僕達がソウルイーターを二人で継承し、共有するんだ」
「共有？」
「ああ……交替で宿すって方法も考えたんだけど、色々あってね。……お互い妙な緊張感あるし」
「はぁ」
「出来れば〝始まりの紋章〟から別れた剣と盾の様に違う形の物ではなく、同じ闇を分かちたいんだ」
同じ形を……
リアンは其の言葉を頭の中で反芻した。
「本当はこんな事、人に頼める義理じゃ無いんだが……」
デュオンがちょっと済まなそうに告げる。
「いえ……！ やりましょう！ もし何かあったら、僕も一緒に考えますから！」
リアンは笑顔でそう言った。
「こないだ失敗した時は、山を吹っ飛ばしただろ、良い訳？」
ルックの突っ込みが入った。
「え？」
リアンの動きが一瞬止まる。
「だ、大丈夫だよ！」
「無理しなくていいんだよ？」
「大丈夫だって！ やってみなきゃ解んないじゃないか！ もう一人じゃないんだし！」
其のやり取りを見て、デュオンはクスッと笑った。
「ああ、もう一人紹介する人が在るんだ。先刻からこっちを見ている赤バンダナに双剣の持ち主がルイさん。――テッドの古い知り合いだよ」
「宜しく、リアンくんにジョウイくん」
「初めまして」
「宜しくお願いします」
場所は被害の出ない大草原。デュオンは吹きすさぶ風の中で手袋を外した。
ルックは経験上サポート態勢。
いざと言う時の結界を担当する。
デュオンとテッドが中央で掌を合わせ、リアンとジョウイはその横に控えた。
ルイは少し離れた場所で佇んでいる。
合計五つの紋章が共鳴した。
「真なる紋章が一つ、汝ソウルイーター。現継承者デュオンと、前継承者テッド、両名の名において、命ずる。汝、其の両名を終なる継承者とし、汝の力と闇、その全てを等しく二人に分け与えよ」
風に導かれた他の紋章が、ソウルイーターに力を貸す。
光るような闇を発した後残されたのは――
「此は……成功したのか？」
二人の右手には赤黒い鎌の様な紋章が刻まれていた。
徒、それは以前よりもほんの少しだけ小さい気がした。
「ソウルイーター表、裏とかじゃねーだろーな。ま、それでもいいけどな」
テッドの言葉にデュオンが続ける。
「生と死とかに別れてたら嫌だよねぇ」
「見た目は全く同じですけど……」
リアンとジョウイが二人を覗き込む。
「大丈夫だよ」
そう言ったのはルイだった。
「闇も生も死も等しく分かたれているよ。――恐らく、不老もね」
「其処まで解るんですか」
デュオンの言葉にルイは微笑む。
「伊達に罰の所有者百五十九年やってないよ。――唯、二人の近しい者の魂を好むと言う性質は変わっていない。――これは二人分に増えた事になる。二人とも気を付けて」
「はい」
デュオンが真剣な表情で答える。
「そうだろうな。じゃあやっぱり表、裏かな。門みてーな呼び方だけど」
テッドの言葉にデュオンが訊ねる。
「どっちが表？」
「お前だろ」
「そうかなぁ。ま、どっちでもいいけど」
試しに近場のモンスター相手に〝生と死を司る紋章〟を使ってみた。
「使い勝手は大して変わんねーな？」
テッドの言葉にデュオンも頷く。
「うん、若干〝死の指先〟と〝冥府〟の威力が減ってる様な気がするけど……？」
「ま、その位は仕方ねーな。二人でやりゃ問題ねーだろ」
「そうだね」
デュオンは改めて周囲の人々を見渡した。
「手伝ってくれてどうもありがとう」
「いいえ！ 頼ってくれて嬉しかったですよ」
とリアン。
「気にしないで下さい」
とジョウイ。
「僕の戦友の頼みだからね。――テッド、やっぱり僕とは友達になれない？」
「え？ ええっとそれは……」
挙動不審になるテッドにルイは軽く笑って。
「いいよ、無理しなくても」
と言った。
「これからどうします？ 僕達はまた旅に戻るつもりですけど」
リアンの言葉にデュオンは軽くテッドと視線を交わして。
「僕達も元の旅に戻るよ。――一度グレッグミンスターにも報告に戻りたいけど……ルックももう少し付き合ってくれるよな？」
「仕方ないね」
「！ グレッグミンスターに行くんですか？ じゃあ僕達も一緒に行っても良いですか？ いいよねジョウイ、少し位」
「構わないよ」
「解った。じゃあ一緒に行こうか。――ルイさん、貴方はどうしますか？」
「そうだね、しばらくはデュオンくん達と行くよ」
「解りました」
デュオン達一行はルックのテレポートで元の場所に戻った。