独りで臨む結末　４

（P４）

　　　独りで臨む結末　～闇の向こう側～

「！！」

　デュオンさんの手の中で、透明な水色の何かが音を立てて砕け散り、
　次の瞬間――様々なことが起こった。

　彼の右手に宿った闇が、急激に広がり、僕等の視界を覆う。
　ヒューゴの右手が、それを防ぐ為に力を放とうとする。

　闇が僕達を隔てる寸前、闇の壁を貫く声が、向こうから聞こえた。

「デュオンさんっ！！」

「！？」

　誰だ？　どこかで――

　続けたデュオンさんの声に、疑問が解ける。

「リアン！　頼む……俺に誰も殺させるな！」
「はいっ！」

　リアン……と呼ばれたその人は、突如空間から現れると同時に、手に持っていた水色のリングを砕いた。
　あれは、さっきのデュオンさんと……同じ物？

　そのまま迷う様子もなく、ルックを引っ掴むと、
　もう片方の手をデュオンさんに伸ばした。

「デュオンさん！」
　デュオンさんが、後ろへ体を捻りながら手を伸ばし――
　その姿は、覆う闇に遮られ、僕からは見えなくなる。

　一瞬の後。

　真なる火の紋章から放たれた〝力〟が、闇を払い飛ばし――
　そこにはもう、三人はいなかった。

　今のは……本当に？
　だとしたら……

「ヒューゴ……大丈夫か？」
　肩で息をつくヒューゴに声を掛けた。
「ああ……あいつらは？」
　ルイさんが、彼等の在た場所を見ながら答えた。

「……行ってしまった……みたいだね」
「くそっ……！　何処行ったか知ってるのか！？」
「――僕には解らないよ。もう、この遺跡には気配がない」
「――くっ」
　ヒューゴは悔しそうに唇を噛む。

　僕は、彼等の在なくなった場所を眺めた。

　あの人は……デュオンさんは、僕達を殺す気が、本当は、最初から、なかった。

　だからあえてヒューゴを狙った。
　僕達の、他の誰でもなく。

　かつて見た、あの人が操る〝闇〟の力は――あんな物じゃない。
　僕達に直接向けられたら――きっと死んでる。

　あの瞳に宿る闇が――嘘だったとは言わない。

　だが、あの人は、全てを護る為に、嘘をついた。
　闇と、殺意を込めて、僕達を、敵だと。

　あの人の中には、間違いなくテッドが、そしてかつての仲間の存在があって、あの頃のままの、あの人が在（い）た。
　強くて、傷付いても優しくて、仲間を護ろうとする、あの人のままだった。
　リアンさんも――生きて、いたんだ。
　――無事で……良かった。

　轟音と共に、周囲に地響きが起こった。

「もう、ここは持ちそうにないね」
　ルイさんが告げる。

「ヒューゴ……脱出しよう」

　促したが、ヒューゴは俯いたままだ。

　すると、ルイさんがヒューゴに歩み寄る。

「ヒューゴくん……だっけ？　もうここに彼等は在ないよ。追い掛けるのなら――外だ」

「！」
　その言葉にヒューゴは顔を上げる。

「何で俺にそんなこと言うんだ？　あいつらの仲間じゃないのか」
「僕は徒の通りすがりだよ。古い約束を果たしに来ただけの。
――それに、僕も昔、崩れ行く中で、沢山失くしてるから」

　その言葉は、やけに真実味を帯びて響いた。

「……」
「ルイさん……」

　ルイさんはそれだけ言うと、踵を返した。

「ヒューゴ」
「……ああ」

　ヒューゴも振り切るように、その場を後にした。

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