Ｐ8 前のページへ 小説目次２へ 幻想水滸伝関連目次に戻る トップページへ戻る
もう何度目になるだろう。こんな風景を見るのは。
彼は瓦礫の中、背を向けて座り込んでいた。
確かにルイが言っていた通り、俺が知っているのとは違う、十五、六歳位の歳に見えたが、その面影と、紋章を見間違える筈もない。
「出て来たこと……後悔しているか」
声をかけると驚いた様子で。
「！ 何で――あんたが知ってる？」
「ルイに会ってな。――お前を追って来た」
その名を出すと、反応があった。
「！ あいつに……？」
「やはり、あいつが一緒に行ければよかったな」
もう一度、その言葉を口にする。
「あいつは俺のことを――人間だと言った」
「！」
「俺はお前を――許しに来たんだ」
静かにそう言うと、テッドは反発するように問い返した。
「！ 何でだよ」
「逃げたいのはお互いさまだ。仕方ないだろう」
「また俺は人を殺してしまった……。それなのにまだ俺を相棒と呼ぶ気があるっていうのか」
「あるさ。だから来たんだ。俺では駄目か？」
「……」
沈黙に、言葉を重ねる。
「ルイや長老達のように巧くやれなければ、お前の相棒にはなれないか？」
「それは……違う。――何で俺達は相手を選べないんだろうな」
「？」
「なぜ普通の人間と一緒には在られないんだろう」
その言葉は、多分普通の――恐らくは追ってきたアルドとかいう人間と共に在たいとテッドが望んでしまい――結果、彼を失くしたということなのだろう。
「……もし本当に辛ければ、俺が引き受けてもいいぞ、その紋章」
「えっ？」
「元々紋章に呪われた身だ。もう一つ位増えても構わないからな」
「デュオン……」
テッドは少し考えた後。
「いや……自分でやるよ。」
きっぱりと、そう言った。
「そうか」
「長老に託されたのは俺だからな。もう少し何とかして見せるさ」
「……そうだな。」
「……ごめん」
「謝ることではないだろう」
「違う。あんたを疑って――紋章から逃げたこと」
「……」
そっちのことか。
「ごめん」
「別に、もういい。こうしてまた逢えたからな」
「……俺はあんたに血をやる。だからその代わりに――また側に在てくれないか？」
「ああ、解った」
俺はうなずいた。
「宜しく頼む」
「こちらこそだ」
テッドの持っていた弓が、木製から使い込まれた金属製のものにかわっているのに気づいたが、俺は何も言わなかった。
誰しも訊かれたくないことはあるはずなのだから。
「……」
テッドはしばらく沈黙していたが、それ以上何も言葉は紡がなかった。
俺が隣に立っても。
こうして又二人の旅が始まった。
そしてしばらく経った道中、街の宿で懐かしい顔に出逢った。
「よかった、その様子だと無事に仲直り出来たみたいだね」
聞き覚えのある声に振り返る。
「ルイ？」
旅装束のその姿に、テッドが驚いたようにその名を呼んだ。
俺はルイの言葉にうなずく。
「ああ、お前のお陰だ。――今日は俺達がおごろう。俺達二人の恩人だからな。――いいだろテッド」
「ああ、勿論だ。……」
「テッド君？」
黙り込んだテッドにルイが声をかける。
「ルイ、お前には言っておかなきゃな。……アルドのこと……」
言いにくそうに言葉を切ったテッドと、その持っている弓を見て、ルイは察した様子で。
「テッド君、それでもアルド君は後悔なんかしていなかったと思うよ」
そう言った。
「ルイ……」
ルイの言葉に、テッドは少し泣きそうな表情でうつむいた後。
「……そうだな、サンキュ」
顔を上げて哀しげだが笑ってみせた。
「俺もお前を見習わないとな」
「じゃあ、食堂に行こうか」
俺は先に立って歩きだした。
「ああ」
こうしてルイと数日を共にした後、再び別れを告げた。