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「おい、あんた大丈夫か？」
木の横でうずくまって仮眠を取っていると、上から声を掛けられた。
「――ああ」
眼を開けると、傾いた日射しがオレンジを帯びて木々を照らしていた。
単に昼寝て夜動く生活なだけだ。調子が悪い訳ではないが、まだ眼が覚めない。
……不本意ながら、調子はいい位だ。
ややゆっくりと視線を上げると、茶色の髪と瞳が、自分を見下ろしていた。
（――子供か）
こう永く生きていると、細かい年齢の見分けが出来なくなって来るが、十歳にならない程度だろうか。
警戒心の欠片もない調子で、幼い少年が話し掛けて来る。
「もしかして、迷ったのか？」
違うと言う意味で、軽く首を横に振った。
「人を、探している。ネクロードと言う四十代位の恰幅の良い男だ。――知らないか？ 多分黒のマント姿だ」
奴は好んで黒を纏（まと）い、その姿をしていた。
「知らない。外から人なんてめったに来ないから、来たら覚えてるよ」
「そうか――ならいい」
いつもより少々はやいが、目覚めたままに立ち上がる。
立ち去ろうとすると、小さな手がマントを掴んだ。
「今から行くのか？ もう夜になる。泊まってけよ」
「……」
「外の人間なんて珍しいし、僕、外の話が聞きたい。それに長老……おじいちゃんなら、僕の知らないことも知ってると思う」
「長老？」
「ああ。この村は初代の長老がここに作ったんだってさ」
そう言って少年が指し示した方向には、確かに小さな村が見える。
山間にひっそりと佇む家々が、太陽の残り火にも似た光を浴びて、その姿を浮かび上がらせている。
「僕、外の人間と話すなんてすげー久し振り」
少年はニコニコと笑って告げる。
「少しは警戒した方がいいのではないか？」
「何で？」
「この村に害意を持つ者が在たらどうするんだ」
真っ直ぐな瞳が俺を見据える。
「あんたが悪い人だって言うのか？」
「……そのつもりはなくとも、そうなってしまう場合もある」
「わかんねーよ、あんたの言ってること」
「そうだな」
「……？ よくわかんねーけど、あんたは僕達に、何かしたいのか？」
「……いや」
かぶりを振る。
「だったら、いいんだろ？ 一日くらいさ。そんなに急ぐのか？」
「……」
――血は足りている。しばらくは持つだろう。それに……〝外〟 か。
「急ごうにも、こう手掛かりがなくてはな。――〝外〟との交流はないのか？」
「知らない」
〝外〟との交流がないと言うなら、先日僕が〝殺した〟一行の事も、恐らく知らないのだろう。
山奥の村なら、自給自足でも珍しくはない。それにこの村は何故か少しだけ……かつての故郷を思い出させた。
「……一晩の宿を頼もう」
「やった！ じゃあこっち、付いて来て」
少年は先に立って歩き出す。
「――そういえば、名前を訊いてないな」
「テッド。お兄ちゃんは？」
「デュオンだ」