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そんな状況でネクロードを追っている時、ある小規模な村が全滅しているのを見た。
見た瞬間、気付いた。
争いの跡は、古くはないのに人の気配はなく、血の痕はあるのに死体もない。
それどころか、墓らしき場所が掘り返され、死体が消えている。
不自然な――異様な光景。
そして、微かに漂う、〝月〟の残り香。
―――ネクロード。
紋章を、悪用したのか？
紋章があれば生きて行ける。
だが、血の誘惑に勝てず、その上、死体に何かしたのか。
月の紋章の民とは言え、僕自身も多くを知っている訳ではなかった。
だが、僕達のように死にかけた者を繋ぎ留めることは出来ても、既に死体となった者を蘇らせることは出来ない。
死体は徒、操り人形の様にゾンビとなるだけだったと聞いたことがあった。
――ネクロードが在る。
だが、紋章を持ち、血を得た奴に、僕が勝てるのか？
答えは否だ。
このままでは、自分の命を保つことさえ、危うい。
今の状態で、奴に叶う筈がない。
しかし僕は、もう一つの望みも自覚していた。
人との、共存。
紋章を取り戻すことで繋ぎ留めたい願い。
奴に勝つ為に、人の血を得ることは、したくはなかった。
僕は、迷い、追い詰められて行った。
自分の中の、〝飢え〟と〝願い〟に。
人里を離れ、山林を彷徨う。
始祖シエラの気持ちが、少しだけ解る気がした。
残ることを決めた、皆の気持ちが。
僕の理性は消えかけていた。
モンスター相手に血を得ても、満たされない。
もう、夜の精気を与えてくれていた〝月〟はないのだ。
細い山道に出た。
そして――悲劇は起こった。
気が付くと、足下に死体。言葉もなく見詰める。
殺さぬ加減すら出来ず、ミイラと化した亡骸が、そこかしこに倒れている。
満たされ、理性を取り戻した身体。広がる血の味と鉄を含んだ匂い。
何が起きたか確かめるまでもない。
自分が、殺した。
おそらくは、旅人一行だったのだろう。運悪く、こんな場所に。
――中には、子供らしい小さな亡骸もある。
「……っ」
微かに混乱した頭を振って、状況を思い出す。
――押さえきれない衝動。自分はそれに耐えきれなかった。
表情を作る事さえ出来ないまま、徒、亡骸を見下ろす。
きっと今の自分は、夜の闇と同じ、閽（くら）く濁った瞳をしている。
もしかしたら、これらもゾンビになるだろうか。そんな思考が頭を過ぎる。
だがそのまま、どこかやり切れない気分のまま、踵を返し、亡骸に背を向ける。
――振り返ることは、出来なかった。
いっそ、人であることを、人であったことを忘れてしまえば。
だが、手に残った温もりの欠片と、口に残った血の味に、一筋の涙がこぼれた。
いっそ〝願い〟など捨ててしまえば、血に浸って楽になれるのに。
人でなくなってしまえば、己の為に生きられる。
力と、血と、永い生命。
ネクロード……お前は……。