（P２）
ＣＡＳＥ・１～共闘～（一主人公視点）
「うわーーっっ！」
森の中。
蜘蛛の子を散らすように走り去って来たのは、ごろつき風の面々。
「……？」
そう言えば、いつかの仲間の内にも似たようなのがいたかな……などと、とんでもなくあらぬことなど考えつつも、僕は先方の気配に棍を構えた。
「！ あれコウ君じゃないですか！？」
金髪の付き人の指した先。巨大なモンスターの足元に、探し人の姿がある。
――猶予がない。行けるか！？
敵の羽ばたきと同時に、辺りに濃い霧のような毒の鱗粉が撒き散らされる。
――まずい！
ためらいを捨て、ソウルイーターの異名を持つ、右手の紋章を解き放つ。死の使いである、闇の力を。
同時に隣で輝く光の力が展開した。
「……！」
真なる紋章。この少年、リアンの力だ。
似ている――だが、異なる波動の力。
――大丈夫だ。行ける！
〝光〟と〝闇〟は反発することなく、同時に敵へと向かい、粉砕した。
やったか……。
「――大丈夫ですか？」
「え？ ――ああ」
声をかけられて視線を向けると、リアンの目は、僕の右手に注がれていた。怖れではなく――心配しているようだ。それに対し、軽くうなずいて肯定する。
リアンの持つ――鮮烈な光。それに呼応する――かつての自分に似た、しかし異なる瞳の力。一見、頼りなさそうにさえ見える、彼に宿る希望。
かつての自分はどうだったのだろう。これ程の光を見せていただろうか？ 闇を――宿す身で。
ＣＡＳＥ・１～選択～（一主人公視点）
僕は夜、バナーの村で、リアンが親友と戦っている事情を聞いた。僕が持つ紋章と同じく、二十七の真の紋章の一つ、始まりの紋章からわかれた、対となる〝輝く盾〟と〝黒き刃〟の紋章を互いに宿していることも。
盾と刃、二つの紋章は、世界が創られた時のように相争う定めを持ち、その果てに始まりの紋章は力を示すと言われている。
そのことを旅の合間に耳にしていた僕は、何となく複雑な心情になり、思わず手袋越しに、自分の紋章に向かって心の中で問いかけた。
（親友と戦う宿命……どう思う……？）
何しろ、僕の親友であるテッドは、操られたまま僕と戦うことを避けるために、自ら死を選んでしまったのだから。
（全く、半殺しにしてでも止めるべきだったよ）
はやまったマネを……と、今でも思っているけれど。
僕達には、リアン達の本当の立場を解ってはやれないのかも知れない。
それでも何か出来ればいいのに。親友への想いと迷いを語るリアンに、僕は何となくそう思った。
そしてリアンの親友であるジョウイとも、紋章の力を通し、夢の中で相見えた。通常なら、対となる紋章の宿主しか会えない筈なのに。ソウルイーターにはいまだ謎が多い。
厳しく、寂しい目をしたジョウイはどこか辛そうで、リアンが言った通り、少し僕と似ている気がした。僕が持つ、闇の部分と。
真っ直ぐに友情を向けるリアンと、厳しい道行きを選んだジョウイ。僕は、自分が関わることの危険性を知りながらも、この二人が出す答えが見たいと思ってしまった。
それ故、リアンの差し出した手を取る道を選んだ。
僕以上にこの右手に宿る紋章の危険性を理解しているのだろう、魔法のエキスパートであるルックは、僕がリアンと共にアース城へ来ることに、いい顔をしなかった。
解放戦争初期の頃は、他人の命も、自分の命さえも、顔色一つ変えず、どこか人を馬鹿にした不敵な笑みさえ浮かべて、〝運命〟の一言でかたづけていたと言うのに。今は、僕がリアンの仲間を、ソウルイーターの犠牲にするリスクを止めるために、僕の前に立ちふさがるなんて。ルックは少し変わったと思う。
本来は、人の痛みを察する素質を持つ人だったのだと、僕は思うけれど。
それが表に出たのは、解放戦争時にみっともない所を見せてしまった、僕の責任でもあるのかも知れない。
僕が、解放戦争時に多くをなくし、無理をしていた頃や、その中で、たった一つだけ、付き人を取り戻せたことに、疑問と迷いを持っていることを、ルックには見せて――と言うか、見抜かれていたのだから。
同時に、同じように大事な存在をなくした、フッチにも見せてしまったよな……と、僕は頭の片隅で当時を思い返していた。
「君は僕の役目の敵だよ」
ルックは、アース城を訪れた僕にそう言い、僕はそれでいいと思ったけれど。
最終的に、ルックは僕とリアンの願いを、投げやりな様子ながらも黙認する言葉を投げた。
「僕はただ、宿星を見届けるのが役目の天間星で、仲間の名を刻む石版の番人なだけだから。星主――天魁星であるリアンが望むのなら勝手にしなよ。――どうなっても知らないけどね」
「そう言うなよ。城にいる間は、なるべく君の所にいさせてもらうから、よろしく頼む。理由は言わなくても、君の方が解ってるだろう？」
僕がそう、多少強引に頼み込むあいさつをすると、ルックは盛大に面倒そうな顔でため息をついたが、結局、僕が来ることを拒否する言葉は、吐かなかった。他の仲間の所に行かれるよりはマシだと判断したのだろうか。親しくなるほどに、この紋章はその魂を欲するのだから。
対抗出来るのは、同じく真の紋章を持つ存在だけだ。そして風の紋章を持つルックもその一人だった。
「君が僕の紋章には負けないって言ってくれたこと、信じてるから」
僕が続けてそう言うと、ルックはいかにも嫌そうに少し声を荒げた。こんな所も、少し変わったと思う。毒舌は相変わらずだけど。
「それとこれとは話が別！ 言っとくけど、君がこの城に来ると、色々面倒臭いんだよ」
立場的にも、右手の紋章にしても。僕は表情を引き締めて答えた。
「知ってる。なるべく迷惑かけないように、気をつけるからさ」
「……そうしてよ？ こっちだって忙しいんだ」
ルックはうっとうしそうに、そう言葉を放った。
こうして、僕は故郷のグレッグミンスターまで、リアン達が迎えに来る度に、彼らと同行することになった。
そして、時には単身ハイランドへおもむき、ジョウイと何気ない会話を交わしながら、空き時間にお茶したりもした。
なるべく双方の軍事作戦には関わらないように気をつけながらも。僕は二人の傍で、二人の選ぶ答えを見届けるために。もう一度、人と関わることを決めたのだ。