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ＣＡＳＥ・１～切っかけ～(一主人公視点)
――故郷を遠く臨む場所で、ただ、佇んでいた。
〝彼〟に会うまで。
「あの、あなたは――」
後ろから人の足音がしたと思うと、遠慮がちに声がかけられた。
釣り場から振り向くと、十五、六才位だろうか。人好きのする、どこか天然そうな、赤い上衣の少年が瞳を向けていた。
どうやってここに来たのだろうか。一応一人、人払いの見張りを頼んでおいた筈なのだが。
いや、それより――この感じは。
予感に近い、感覚。
かつての僕に似た――懐かしいほどの――星の光だ。
「君は――」
僕は、その澄んだ瞳の奥を覗くかのように、真っ直ぐに視線を合わせ、名を問い返す。
彼は――リアンと名乗った。
その存在と共に、僕の周囲の時間が、再び急速に動き始める――。
都市同盟の軍主をしていると言う彼等と共に宿に戻ると、宿屋の子供がさらわれたと言う話で。
かつて解放軍の末席にいたと言う宿の少女に、救出を頼み込まれた。
――何とかしたい所だが――。
かすかにためらい、視線を伏せる。
かつて、敵も味方も関係なく、近しい者の魂を喰らってしまった、この右手にある〝生と死を司る紋章〟故に。再び人と関わる踏みだしは――怖れを伴う。
その時、紋章がちり、と反応した。
ＣＡＳＥ・１～決意～（二主人公視点）
「！！」
突然その人の右手から立ち昇る暗黒の気配に、僕は息を呑んだ。強い……紋章？ 祠で〝始まりの紋章〟と向き合った時に似た……感覚。
デュオンと名乗ったその人は、左手で紋章を押さえ込む。
「……！」
見る間に力が押さえ込まれて行く。その姿に、強い精神力を感じた。
辛そうな眼差しのデュオンさんに、隣にいた左ほほに傷のある金髪の青年が何かをささやいた。デュオンさんの眼は、複雑そうに曇ったけれど。それでも――立ち上がり、宿屋の出口へと歩き出す。
僕と余り変わらない程の年齢に見えるけど。その瞳は、外見に反して、ずっと深く大人びて見えた。
「――あの、待ってください僕も行きます！」
隣を通り過ぎようとしたデュオンさんに、僕はとっさに声をかけた。
この人と僕を会わせるために、コウと言う宿屋の子供は、自分が山の方から助けを呼ぶ芝居をして、見張っていた金髪の青年をどかそうと言いだし……嘘から出たまことになってしまったのだ。
「元はと言えば僕のせいですから」
そう言うと、なぜかデュオンさんの瞳は、一瞬、辛そうな陰を見せた。
「？ 迷惑ですか？」
「――いや、――行こう」
何かを振り切るように出て行くデュオンさんと共に。僕達も宿を飛び出した。