お約束。～騒動の始まり？（Ｓｉｄｅルック）～
「……ちっ」
それが、難なく魔法障壁を抜けたのを見て、舌打ちする。
やはり、徒の魔法ではない。
そして、普通の実体でもない。
倒れた二人を見て、内心ため息をつく。どうしてこう、面倒ばかり起きるのか。
「おいリアン！ 大丈夫か？」
「何でデュオンまで」
騒ぐメンバーを一瞥する。
「――死んじゃいないよ。いいから、さっさと城に運ぶよ」
予想が正しければ、さらに面倒なことになっているだろうが。
面倒が始まったのは、今に限ったことじゃない――。
そう、デュオンが飛び出したあの瞬間から始まっていたんだ――。
お約束。～欠落と違い（Ｓｉｄｅルック）～
予測出来ることだった。
リーダーでいた頃でさえ、ああだったんだ。
リーダーとして生き延びる義務を持たなくなったあいつが、誰かを……リアンを庇うことくらい。
予想出来ることだった。
徒、誤算は――その先にあった。
城の一階、凄い足音を立てて軍主――リアンが走って来る。
確か、あいつと一緒に救護室に付いてったけど。外傷は大したことなかった筈だけど、問題でも起きたか。
「何、どうかした？」
「あ！ ルック！ デュオンさんが……！」
かなり慌てながら足を止める。喧しい。
「……」
「デュオンさん……僕達のこと……解らないって……」
リアンは揺れる眼差しを彷徨わせながら。
「記憶が、ないみたいなんだ……」
「――」
記憶が？ そうか……。少しマズイかも知れないな……。
「で、あんたはこれからどうする訳？」
「え、取りあえずシュウさんに話して来ようと思って」
その言葉に軽く息をついた。
「それは、僕が行くよ」
「え？」
「あんたはアイツに気が済むまで謝り倒して落ち着いて来れば。軍師殿は連絡会議中だし。
あんたがそのテンションで飛び込んだらヒンシュク物だよ」
「あ、……ありがとうルック。じゃあ頼める？」
「了解」
喧しい軍主を追い払うと、軍師の所へ向かう。
「シュウ軍師、失礼するよ」
――手短に用件を告げると、部屋を出た。
そのまま、壁に背を預ける。そのうち、彼等も来るだろう。
……記憶、か。
あいつにとって、消したい物だったかどうか。そんなことは知らない。
だが、あいつの記憶が消えたとなると……。
僅かに面倒な予感がする。
原因はあの光。何だか妙な気配がした。
あれは、本当に魔法だっただろうか……？ 少なくとも紋章を使った魔法とは違う。近くても異なる何か。
しかし、背後関係なんかの解明は軍師連中に任せるにしても。
面倒な事態にならなきゃいいけど。
僅かな時間の後。
――来た。軍主と――あいつが。
記憶がないだけで……違う。
かつてを思い起こさせる程に、押さえ切れぬ〝闇〟の気配が滲み出している。今までとは違う……無防備なまでに紋章への歯止めが消えている。
まとわりつく闇の気配に思わず眉を顰めた。
「……パーになったんだって？ ざまあないな」
そう言うと、デュオンは僅かに眉を寄せた。
「――何だって？」
自覚もない様子に腹が立つ。
面倒な予感的中だ。
「ルック」
名を呼ぶ軍主は先程より落ち着いて見えるけど。
「リーダー、そいつをここに留めない方がいい。元々部外者だ」
「でも僕のせいだし、放ってなんかおけない」
やっぱりそう来たか。
「国際問題になりかねんしな」
直ぐ横の部屋から軍師達が出て来る。
「――軍師殿」
「シュウさん」
連中は、トランとの協力関係のこととかで、あいつを引き留めようとしている。
シュウ軍師は流石にその右手の危険に気付いてるだろうけれど。無下に放り出せないのが厄介だ。結局、さっさと記憶を戻させるのが得策という考えか。
「リーダー」
軍師連中が引き上げた後、軍主に告げる。
「今のそいつは足手まといになる。あまり関わらないことだよ」
「ルック……」
困ったような軍主の表情。
ま、その性格じゃ難しいだろうけどね。
一応、忠告はしておく。今の僕の役目だから。
「何か、恨みでもあるのか？」
訝しみと僅かな不満を見せて問うあいつが今は煩わしい。
「さぁ、ね」
知らないよ。
これ以上は、僕の仕事じゃない。