お約束。～挑戦？～
城の訓練場の端で、見覚えのある忍者の少年を見かけた。何やら難しい顔で唸っている。
「あれ、サスケ。何してるんだ？」
「あー、どーやったらヤツに一泡吹かせてやれるかって考えてんだよ」
「ヤツって……」
「ルック！」
どうやらサスケの戦う相手はルックらしい。
まぁ、詳しくは知らないが、戦況は小康状態の様だし。
「成る程……で、そのルックは今どこにいるのか知らないか？」
そう言うと、サスケはちょっと顔を上げた。
「お前、ほんっとーに、前とは違うんだな」
「え？」
「ヤツなら一階中央の石版とこで、カカシみたいに突っ立ってるぜ、大抵。お前も前は良くその辺で見かけた」
「そ、そうか……」
「お前、いっそ今のままでいたらどーだ？ やっぱ取り戻したいのか？」
その言葉に、少しだけ考えながら、だけど正直に告げた。
「……そう言って貰えるのは嬉しいけど、取り戻さないといけないと思う。――君達をなくしたくないから」
「は？」
全く解らないと言う表情のサスケに、軽く首を振る。
「いや、何でも。――それより、戻る前に一遍位、あいつに勝っておきたいと思わない？」
そう言って視線を向けると。
「一度と言わず何度でもだ！」
頼もしい答えが返った。
「――だな」
僕達は顔を見合わせて、少し笑った。
「ルック、僕と勝負してよ」
さっそく申し出てみると。
「又来てるのか……」
ルックはいかにも不機嫌そうだった。
「ルックって、訊いても答えそうにないから。
勝負して、こっちが勝ったら、僕について知ってる事話すってので、どうだ？」
そう言うと。
「――〝殺す〟存在に、言うことなんか何もないよ」
と返された。
「それって、僕の元の記憶を戻すって意味なのか？」
「……」
沈黙するルックに僕は言葉を重ねる。
「記憶を戻すと、今の僕は消える。――そう言うことなのか？」
「……」
「おい、何とか言えよ」
答えないルックに、しびれを切らせたのか、サスケが前に出た。
反撃が来るかと思ったが、ルックは面倒そうに、
「……そうなるだろうね」
と言っただけだった。
僕は改めてルックに向かい合う。
「今の僕には解らないけど、僕が山程忘れる事があって、君が重大なことを幾つも隠してるってことは解るよ」
「……」
「僕は、今の僕として、本当のことを知りたい。
それに、僕が忘れてるせいで、みんなの方が、僕を見る度に辛そうなのも嫌だ。
そして何より――サスケやフッチをなくしたくない」
「――」
ルックの眼差しが、僅かにきつくなった。
だけど、逃げない。正面から視線を受け止めた。
「僕は――真実から逃げたくない」
すると斜に構えた視線が閃いた。
「へぇ……何も知らないくせによく言うね」
「だから知りたいって言ってるんだ」
「いーから勝負しろ、ここで会ったが百年目だ！」
どうやらサスケは目的が違うらしい。
ルックの瞳に剣呑な光が宿る。
「今の君に遠慮なんかしないよ……纏めて来なよ！」
瞬間、多数の風の刃が八方から襲いかかった。
先程から僕達の様子を見に来ていたフッチまで否応なしに巻き込まれている。
「伏せて！」
目前に迫る風刃に、フッチが槍を振るうと、穂先に裂かれて風が散った。
「お、やるじゃん」
サスケが感嘆の声を上げる。
背中越しにフッチが軽く説明をくれた。
「前のデュオンさんの助言で、穂先に風の紋章片を打ち込んだんです」
「へぇ……」
前の僕、か。
だが、今は。
今の僕は、今の僕のままで。
「行くぞ！」
いくらルックに広範囲魔法があろうと、頭脳は一つだ。
纏めて来いと言った以上、利用させてもらおう。
元々ここで大技は使わないだろうが、その暇を与えてはいけない。
再び放たれた風を、避けられない物だけフッチが前に出て散らす。
僕達はフッチの下をかいくぐるようにして前に飛び出した。
渦巻く旋風に、まともに食らわないために頭から突っ込む。
「くぅっ！」
サスケの攻撃と時間差で打ち込み――。
風を切る音が辺りに響いた。
「っ――」
僕はロッドにまとった風に肩先を切られながらも、ルックの喉元に棍を突き付けていた。
「――」
張り詰めた瞬間が流れた。
――ふいにルックがすっとロッドを引いた。
「――いいだろう、三人がかりのプライドの無い根性に免じて、説明してあげるよ」
「！」
思わず、サスケと顔を見合わせる。
「やったっ」
「よっしゃぁ！」
自然と浮かんだ笑みと共に、サスケと拳を打ち合わせた。
サスケはすごく嬉しそうだ。
そして、僕はルックに向き直る。
「三人がかりは悪かったけど――どうしても、一緒に何かやっておきたかったんだ。
それと――ありがとう。初めて〝今の僕〟を相手してくれたよな」
ずっと、今の僕なんか見ていない気がしていた。そう言うと、冷めた視線が返った。
「……馬鹿な所だけは変わらないな」
『だけ』の部分に妙に力が籠もっている。
「……本当に恨みがあるんじゃないのか？」
「さぁね。――行くんだろ」
「あ、ああ」
フッチと視線を合わせ、一つうなずきき合うと、僕はルックの後を追った。