お約束。〜疑問？〜
「デュオンさん、大丈夫ですか？」
茂みを掻き分ける葉擦れ音と同時に、木々の間から、リアン達が現れた。
「ああ」
軽くうなずく。
あれから、自分にも回復魔法かけたから、すっかり回復している。
「ルックは……？」
辺りを見回しながら、リアンが訊いた。
「それが、さっきまでいたんだけど、帰るって言って消えた」
そう答えると、サスケが不満そうにつぶやく。
「勝手なヤローだな」
「二人とも、怪我は」
フッチの言葉に口を開く。
「僕は平気。あいつは……一応回復かけたんだけど、巻き込んで下敷きにした割には、直接反撃が来なかったから、どっかケガしたかもな」
「……」
リアンは少し考えるような顔をした。
「お前、良く殺されなかったな。っつーかすげー根性あるな」
サスケの言葉に軽く首を振る。
「流石にわざとじゃないって」
「偶然か、それでもすげーけど」
「うっかり下敷きじゃ嬉しくないよ。それに、リアンの仲間に何かあったら困るだろ」
「ちぇ」
不満そうなサスケに、笑いかける。
「どうせなら、正々堂々勝ちに行きたいけどね」
「おっ、やるなら乗るぜ」
「機会があればね」
そう、その余裕があれば。
「ところで、フッチ」
サスケから離れ、フッチに声をかける。
「――前の僕があいつと仲良かったって言うの、あれ、本当かも知れないな」
「何かあった？」
「何となくだけど。前の僕と仲が良かったって話を出した時――否定はしなかったよ」
「そう……」
「今の僕は殺すって言われたけどな」
そう言うと、フッチは疑問を口にした。
「それ、どういう意味だろう。徒怒ってたとか……？」
「どうだろう。意味を訊いたけど、答えなかった」
「……」
微かな沈黙が降り、リアンが切り出した。
「今日は一回戻りましょう。ルックの事も気になるし、見に行って来ます」
「そうだな、――僕が行くと逆効果だろうから、頼むよ」
僕もそう言って同意した。そう、なぜか今の僕がいると、ルックの機嫌は悪くなるようだから。
「リアンさん、僕も行っていいですか」
進み出たのは、フッチだった。
その申し出に、リアンは軽くうなずく。
「うん、いいよ」
こうして、リアンとフッチがルックを探すことになった。
お約束。〜質問？〜
リアンとフッチは医務室の近くでルックを見付けた。
「ルック、やっぱり怪我したんだ、回復いる？」
リアンの言葉にルックは無表情に応える。
「いや、必要ない。――君の力はこんな事に使うべきじゃないよ」
「そんなことないよ。ルックは仲間なんだから」
リアンの真面目な眼差しに、ルックは軽く息をつく。
「とにかく、何ともない。……何か用？」
「ルックが先に帰るなんて珍しいし、デュオンさんが下敷きにしたって言ってた」
「ああ」
「だから、様子見に来たんだ」
そう言うリアンに向かってルックは少し視線を落として。
「……君に話を通さなかったのは、悪かったけど、問題ないよ」
「本当に平気？」
「ああ。それより、さっさと解決することだね」
「……」
ずっと黙っていたフッチが、思い切った様子で口を開いた。
「ルック。話があるんだ」
真剣な眼差しでルックを見つめる。
「出来れば二人で――いいかな」
「少しなら構わないけど？ リーダーは？」
ルックとフッチの視線がリアンに向かう。
「僕はもういいから。後はお願い」
リアンはフッチに向かってそう言った。
「はい」
リアンと別れ、屋上に出る。
夕方が近い。
朱を帯び始めた光と、風。
二人の間を抜ける。
「……単刀直入に訊くけど、今の状況って、君から見てそんなに悪いのか？」
フッチはそう切り出した。
「どうしてそう思う？」
ルックは、普段から無表情に近いんだけど、最近はさらに色味の少ない眼をする気がする。
「最初から、おかしいとは思ってたんだ。デュオンのこと遠ざけようとしてるのもそうだけど、
デュオンに対して変に態度に棘があるって言うか……リアンさんも気付いてると思うけど」
「……」
「ルックが意味なくああいう態度してるとは思わないよ。
ルックがリアンさんに意見するってことは、それなりの理由があるってことだろう？」
「……フッチ」
僅かに低めた声が耳を打つ。
「一度だけ、忠告するよ。このままだと――次に死ぬのは君だよ」
「！」
ルックの言葉は、淡々と……冷徹に響いた。
「今のあいつは、紋章を制御出来ていないだろう」
「……確かに……前より不安定になってるみたいだったけど……」
ことの深刻さに、フッチは微かに肩を震わせた。
「ルックにはそこまで解るのか？」
ルックは微かに呆れたような息をつく。
「君も多少は解ってるんだろ？ あいつの右手に宿るモノをさ」
「ソウルイーター……。でも、僕が？」
ルックはあっさりと告げる。
「知らないの？ あれは近付く者の魂を狩るんだよ」
「！」
フッチの心臓が高鳴る。
ルックは微かにつまらなそうに続ける。
「喰われたくないなら、あいつを元に戻すことだよ。リーダーにはあいつを遠ざける選択肢がないらしいからね」
「……」
「じゃあね」
「ルック！」
去ろうとするルックを、フッチは呼び止めた。
一つだけ、気になったことがある。
「どうしてそれを、デュオンに言わないんだ？」
「――」
ルックの眼が僅かに細くなる。
「あの人の本質は変わってないと、僕は思う。言えば、受け止めると思うよ」
「何で僕がそこまでしなきゃならないんだ」
ルックは不機嫌そうに告げた。
「僕はリアンの兵なんだよ？ そこまでする義理はない」
そう言い捨てると、さっさと帰ってしまった。
「……」
ルックの態度に、僅かに納得の行かない何かを感じたけれど。
それ以上に、告げられた言葉の重さに、フッチは一人、唇を噛み締めて、立ち尽くした。
それから、幾ばくか経った後。
「……フッチ？」
屋上に顔を出したのは、リアンだった。
辺りは大分薄暗くなって来ていた。
フッチは、振り返ると、リアンの方に向き直った。
「リアンさんは……デュオンの右手にある紋章の話、聞いてますか？」
リアンに対して、デュオンを呼び捨てにするのは多少抵抗があったのだが、
リアンは気にしてない様子で、思い出すように空を見上げた。
「生と死を司る紋章……。宿主の身近な者の魂を取り込む 呪われた紋章だって、デュオンさんは言ってたけど……」
「そう、なんだ……」
「デュオンさん、あの紋章の事、忘れちゃってるみたいだったな」
「……そっか」
告げるべきなのだろうか。
「リアンさんは、その紋章のこと、デュオンに話さなかったんですか？」
そう訊くと。
「……うん、急に全部話しても混乱させるかと思ったし……。それよりはやく戻す方法を探した方がいいと思って。
僕、あんまり知らないし、僕が言うより、デュオンさん自身に思い出してもらった方がいいんじゃないかって」
「そうだったんですね」
それがリアンの考えで、記憶を戻す方法を優先している。
それは図らずも、デュオンを遠ざける以外で、ルックが示した方法と一致していた。
自分はどうしようか。
「リアンさん、デュオン……未だここにいますか？」
訊いてみよう、と思った。
今のデュオンに。
「いると思うよ。帰る時は声かけるって言ってたから」
「じゃあ、ちょっと探してみます」
「うん」