お約束。～垣間見える物～
森の中での戦闘。
そして――。
「う……わっ」
敵の攻撃を回避した先に、地面が、なかった。下生えの茂みに隠れて見えなかったけど――崖！？ 伸ばした手の先に、布地が絡んだ。とっさにつかんだのは――。
「！！」
あ、人！？
だが、思いっきりマズイ体勢だったため、僕らは、一緒くたに崖下に転落した。
「デュオンさん！」
誰かの声が、遠く聞こえたが――
唸る風の音と。
耳元に響く枝が擦れ、折れる音にかき消された。
「！！ っ……」
墜落した衝撃に、一瞬意識が飛んだみたいだ。痛みに耐えながら、うっすらと眼を開けると、上の方に、落ちたらしい崖が見える。
「……？」
木がクッションになったとは言え、あの高さから落ちた割には衝撃がない。って言うか、下が地面や枝の感触じゃない？
痛む身体を起こして下を確認すると。
「げ。」
そこには、例の性悪そうな魔法使いの姿――って下敷きにしてる！？
急いで上から退いた。いくら何でもうっかり下敷きで死亡事故じゃ後味が悪すぎる。
「おい、大丈夫か？」
声をかけたが、反応がない。
顔色が悪く、眼は閉じられたままだ。落ちた時、枝か何かで擦ったらしく、頭部から出血している。取りあえず、手足があらぬ方向に曲がっていたり、枝が貫通していたりはないようだが……。
左手だけ手袋を外して、フッチと練習した回復魔法を試してみる。淡い光を湛える水の魔力が、ふわりと包み込み――ルックの傷を癒す。
「……」
すると、呼応するかのように、ルックの眼が薄く開いた。
「君……か、デュオン……」
――え？
まるで、僕がここにいるのが当たり前みたいに、その言葉は響いた。
いつもの棘が全然感じ取れない。
「……大丈夫か？」
声をかけると、視線がピリッと動いた。元の刺々しい視線に、一瞬で戻った。そのまま眼を逸らすように立ち上がる。
表情の見えない彼に、声をかける。
「その……ごめん。それと……ありがと」
状況はともかく……助かったのは確かだ。
「今の君は、目障りだ」
絶対零度の声。今度ばかりは、返す言葉もない。
だが。
「あのさ、前の僕は、お前と仲良かったって聞いたけど」
「……」
ルックは少し忌々しそうに沈黙した。
「もしかして、さっき、前の僕と間違えた？」
そう、なぜか全然……雰囲気が違った。
ルックは視線を落としたまま、質問には答えなかった。
「そんなに、前と違うのか？」
こいつにとって、今の僕は、そんなに違うのだろうか？
そう訊くと、ルックは顔だけこちらに振り向き、細めた鋭い視線を向けた。
「僕は……〝今の君〟を殺すよ」
「え……どういう意味だ？」
思わず問い返した。
だがルックは何も言わず一歩遠ざかる。
「おい？」
「帰る」
「ちょっ……」
とっさに引き止めようとしたが、次の瞬間、奴の姿は空間に消えていた。
お約束。～残された一行～
「うわっちゃ～、殺されるぞ、アイツ」
二人が落ちた崖下を覗き込みながら、サスケが言う。
「流石にそれはないだろうけど……」
フッチもやや不安そうな表情を見せてつぶやいた。
そう、あの二人なら、最悪の事態だけはないだろう、多分。
でもルックの様子は、ここの所少しおかしい、と言うか、〝デュオン〟に対して妙に冷たい
のが気になる。
「サスケ、降りられそうな所探して。迎えに行こう」
「おう」
リアンの指示に、サスケが顔を上げて答えた。