お約束。～特殊な状況？～
「リアン！ 私体に良いスープ作って来たから！ はいどうぞ！」
何となく見慣れない部屋の天井を見上げていると、ナナミ〝お姉ちゃん〟がばたばたとやって来た。
「あ、ありがと」
特に断る理由もなく、それを受け取る。
「さ、飲んで飲んで」
「――うん」
そのまま一口、口に運ぶと。
「！？」
何というか――衝撃が走った。
その衝撃に何か思い出すんじゃないかとか、覚えがあるんじゃないかとか、一瞬考える程に――実際には何も思い出さなかった訳だけど――
遠回しに言っても、〝美味しい〟とは言い難いような――。
ぶっちゃけ、酷い。
僕は何とか表情を取り繕って、顔を上げた。
「――ありがとう、でも僕ホウアン先生に決められた物以外食べちゃダメって言われてたんだ、
――だからゴメンね？」
「えー、そうなの？」
「ん、うん」
「うーんお医者様の言いつけなら仕方ないね」
――何とかしなくちゃ。
僕は思考を巡らせた。
〝お姉ちゃん〟に悪気はなさそうだ。
僕はずっとこの〝お姉ちゃん〟の料理を食べていたのだろうか？
だとしたら僕は凄い胃か味覚の持ち主だったと言うことなのか？
僕は〝お姉ちゃん〟に「はやく休むように言われているから」と言って退室してもらって、こっそり部屋を抜け出した。
「何ですって！ ナナミさんの料理を！？」
「おいホウアン！何で止めなかったんだ！」
医務室のホウアン先生とフリックさんの反応がこれだった。
「……」
……これは……まさか……。
何だか嫌な予感がしつつ、二人を見上げると。
「うっかりしていました。シュウ軍師殿には私から報告しておきます」
ホウアン先生の言葉に、フリックさんが釘を刺した。
「ああ、もう二度とないように頼むぞ」
「はい、それはもう対処しておきます」
……もしかしたら僕は特殊な環境にいたのだろうか？
何でこの人達〝軍主の姉の手料理を食べさせないため〟にこんなに一致団結しているんだろう……？
「リアンさん、済みませんでした」
ホウアン先生が深々と頭を下げた。
「あ、いえそんなに大したことじゃ……」
僕が手を振ってそう言うと。
「それはお前だからだ」
フリックさんが呆れたようにため息をついて。
「俺なんかあれでぶっ倒れて半日は意識が飛んだぞ」
「ええっ！ そんな大変なものだったんですか？」
「ああ、だから気を付けろよ」
「はぁ……」
イマイチピンと来なかったけれど、ホウアン先生は〝予防薬〟として弟子のトウタ君に何か紙切れを持たせて僕と一緒に行くように言ってくれた。
そしてその後、トウタ君は食堂で〝ナナミお姉ちゃん〝にその紙切れを証拠として見せながら〝ホウアン先生に許可された物以外を食べないように僕を見張っている〟と言ってくれたのだ。
こうして僕の食生活は保障されたのだった。