お約束。～水面下の人々？～
「――済まない、遅くなった」
デュオンが図書館に戻ると、
資料の山と格闘していた一行が視線を向けた。
最初に口を開いたのはルックで。
「話は青いのから聞いてるよ。そっちの右の山が未だ手を着けてない奴だから」
ルックは意外にも咎めや嫌味はなしで、あっさりと用件だけを告げた。
「解った」
デュオンも心得た様子で空いた席に陣取ると、作業に入る。
「今の所、報告出来る成果はないね。――時代は大分絞れてるけど」
テンプルトンの状況説明に、〝そうか〟と軽くうなずき、デュオンは資料に眼を落とす。
「――デュオンさん、リアンさんの方は、どうでしたか」
フッチの問いかけに、デュオンは視線は上げずに答える。
「そうだね、まぁ多少とまどってるみたいだったけど……問題ないと思うよ、状況の割には」
「そうですか……」
フッチは手元に視線を戻した。
「説明はしたのか」
今度はルックが訊ねる。
「場所と立場の説明だけ軽くな。……紋章や、皇王については未だ」
後半、デュオンの言葉が僅かに重くなる。
「話すつもり？」
事実だけを問う声音は、遠くからのスタンスを感じさせる。
――ルック本来の立ち位置を。
デュオンは特に変わらないトーンで告げる。
「リアンが望むなら、僕は隠すつもりはないよ。――不都合があるなら、言ってくれ」
僅かに視線を上げたデュオンに、ルックは投げ遣りに言葉を放った。
「僕に説明役を振らないなら、勝手にやりなよ。後は軍師殿に訊くんだね」
その言葉にデュオンは軽くうなずいて。
「そうだな、――君には、説明役は振らないよ」
後半、軽く調子を変えたその言葉に、ルックがチラと横目でデュオンに視線を送る。
「――何か言いたい訳？」
「いいや、我ながら無理を言ってたなと思って」
微かに苦笑気味に告げるデュオン。
「どう言う意味さ」
「――」
デュオンは僅かに言葉を止める。
ルックに親切な説明―しかも個人的な事情に関して―を望むのは酷なのだろうと、今なら思う。
一見、解りにくいが、
ああ見えて、ルックはルックなりに譲歩していたのだろう。
だが、記憶のない時、ルックが何か知っているように見えたのだから、仕方がない。
「――いや、説明し辛いことを訊いたかなと。それだけだ」
――記憶のない状態で、いきなり棘のある態度をされたら、
問い詰めたくもなると言うものだが。
ルックがルックなりに、この城のことを考えていたのだと、解る今となっては――言う必要もない。
「ふぅん」
ルックもつまらなそうに相づちを返しただけで。
それ以上は突っ込まずに。
その後は一行は黙々と作業を続けた。