お約束。～交代の影響？（Ｓｉｄｅルック）～
マクドール邸。
その一室の扉を開けると、デュオンが視線を向けた。
無表情に近い、しっかりとした眼差し。今までの、無意味なまでの笑顔や、様々な感情の発露は消えている。
――少なくとも、表面上は。
「あぁ――君が来たのか」
言葉も、僕に対する態度や感情も、元に戻っているように見える。
――解っている。記憶は、戻っているんだろう。
だが、やはり訊いてみた。
「――記憶は？」
「――」
デュオンは一瞬、苦笑ともつかない、どこか哀しげな微笑を見せた後、答えた。
「見ての通りだ。――戻ってる、大丈夫だ」
「……」
大丈夫、か。どのことを指して、言っているんだろうな。紋章か、気持ちか。
――まぁ、どっちでもいい。
デュオンは、こちらを向くと、軽く頭を下げた。
「ルック、色々と――済まなかった。……特に崖落ちとか」
全くだ。
「助かったよ、ありがとう」
「そう思うなら、働きで返しなよ。――今の状況、予測付くだろ？」
皮肉も込めてそう言うと、
デュオンは少し見上げるように視線を上げる。
僅かに意外そうな眼差しにも、訝るような視線にも見える。
「それで、いいのか？」
「――出来るならね」
僅かに投げ遣りで挑戦的な言葉を投げる。
「――解った」
言うなりデュオンは踵を返す。その視線は既に〝外〟に向かっている。
「図書館借りるぞ。確かテンプルトンがいただろ」
「ああ。――心当たりがあるのか」
迷いのない態度からして、何らかの手がかりをつかんでいるのだろうとは思うが、あえて訊ねる。
「それを、今から確かめる」
そう、答えが返った。
「――そうか」
図書館の扉が、音を立てて開く。
「テンプルトン、この地域の歴代の地図や伝説や戦いの記録を調べたい。協力してくれ」
図書館の奥まで来るなり、デュオンが示した場所は、例の発光体が現れた森の一角だ。
途中、城内でデュオンが声をかけたサスケとフッチも、なぜか図書館に付いてきていた。
「いいけど……理由は？」
テンプルトンの問いにデュオンが答える。
「……視たんだ。記憶を」
「え？」
デュオンが説明を始める。
「あの場所には、昔、大きな湖があった筈なんだ。
そこには神聖なる〝力〟が宿るとされて……村人達に奉られていた。
だけど、戦争だか襲撃だか解らないが……滅びたんだ。その村が。
その時に……あの子が、その〝湖の力〟を使って……多分、原因はその辺りだと思う」
「原因って、今回の……あなたやリーダーの件の？」
「ああ」
テンプルトンの言葉に、デュオンはうなずいて。
そのまま視線を落とした。
「……記憶を、探してるんだ。自分のなくした……いや、なくしたかった記憶の代わりの、幸せな記憶を。
だから、リアンが狙われたんだ」
「……」
全員、複雑そうに沈黙している。――何となく、気に入らない話だな。
そして、デュオンは、微かに苦笑する。
「どうやら、僕の記憶はお気に召さなかったみたいだね。押し付けて返されたよ、おまけ付きで」
「……」
こいつの過去の記憶が気に入らない――それも何となく納得が行かないが……。
リアンと違い、幸せな記憶があっても、その後の記憶がハード過ぎたと言うことか。
「ともかく、その〝力〟の正体が解れば、解決に繋がるかと思うんだ」
デュオンのその言葉に、割って入った。
「――解ったよ。それはこっちで進めておくから、あんたは先にシュウ軍師の所に行って来てくれ」
「ルック」
視線を向けるデュオンに説明を重ねる。
「あんたを呼んで来いって言ったのは軍師殿だから。あんたが行かないと僕が怒られる」
そう告げると、デュオンは軽く納得の表情を見せて、その申し出を了承した。
「……そうか、解った。じゃ、悪いけどここはしばらく任せるよ」
「ああ」