お約束。～交代の影響？（Ｓｉｄｅデュオン）～
軽い音を残して、部屋の扉が閉まる。
――目の前には、例の肖像画。そう、ここはマクドール邸にあるデュオンの私室。
「………………」
暫く、沈黙のまま、肖像画の人物に視線を向けていたデュオンは、ようやくつぶやく。
「――きっと、何度なくしても、戻って来る」
その視線は、親しみと哀しみを込めて微笑む。
「それでも、君は……薄情だと笑うのかな」
こつり、と頭を絵の縁にもたせかけるようにして。
デュオンは暫くの間、佇んでいた。
「――坊ちゃん、帰ってるんですか」
微かな音と共に顔を出したのは、グレミオだ。
「……」
答える気になれず、視線だけを向ける。
「――坊ちゃん？」
グレミオは僅かに不思議そうな声音で問いかけた後、
その瞳を見て気付いた風で。
「坊ちゃん、もしかして、記憶が――？」
その言葉に、微かに苦笑する。
――流石に、察しが良い。別段、隠している訳でもないけれど。
そう、思い出した。ソニエール監獄でグレミオが、自分達を人食い胞子から庇って命を落としたことも、百八星と門の紋章の力で奇跡的に生き返り、だがその魂の〝力〟は今もこの右手にあるソウルイーターの中に存在していることも。
「グレミオ？ 坊ちゃんが帰ってるのかい？」
クレオも顔を出した。
――なぜか、懐かしくて、少し哀しい。
「ああ――〝ただいま〟」
少し明るく、告げることが出来た。
「グレミオの言う通りだよ。――記憶、戻ってる」
「！」
二人は一瞬、僅かに驚いたような表情を見せた後。
クレオが少し気遣う表情を見せる。
「坊ちゃん、大丈夫ですか？」
「――ああ」
軽くうなずいて答えた。
気を取り直すように、思考を回す。
「……多分、城から誰か来ると思うから、来たら通してくれ」
――何も言わずに、戻って来てしまったしな。少し、気にかかっていたし、恐らく誰か来る筈だから。
「解りました」
「それと……」
少しだけ、言葉を切って、
「それまで、少し……一人にしておいて欲しい」
こんなことを言えば、気を遣わせてしまうのだろうけど。
今だけは――少し。
「「――はい」」
二人は、心得たようにうなずいた。