お約束。～垣間見える物（Ｓｉｄｅルック）～
森の中での戦闘。それ自体は珍しくもない。
だが――.。
「う……わっ」
「！？」
後方から聞こえた声に、状況把握が及ぶより先に、
予想外に横から引かれた力で体勢が崩れる。
「！！」
こいつ……ローブの裾を引っ掴みやがった！
同時に足元が崩れ、もろともに崖から空中に放り出される。
「っ……！」
見る間に木々と地面が目前に迫る。落ちて徒で済む高度じゃないが転移が間に合わない！
次善策として、とっさに邪魔なデュオンを押しのけ、体勢を入れかえるようにしながら、地面に向けて風を放った。多少勢いは相殺したが、即席のため、完全に緩和は出来ない。
そのまま枝葉の中に突っ込み――。
「――ぐっ！」
下からだけでなく、上下両方からの衝撃に、息が詰まり、意識が保てなかった――。
…………
…………
――今日も明日もない、白い空間。
その中に、柔らかく色が広がる。
――透明な、水の色。
どこか懐かしい、冷たく暖かい気配。
その気配に、意識が浮上した。
狭い視界に映ったのは――。
「君……か、デュオン……」
別段意外でもない顔だった。
かつて、何度となく顔を合わせ、その魔法も知っている。
「……大丈夫か？」
「！」
違う。
今のこいつは、こいつじゃない。微妙に違う声音に、ようやくそのことを思い出した。
自分の失敗に苛立ちながら視線を外し、立ち上がる。
動けるのは、さっきの回復魔法のせいだろうが、正直、未だキツイ。
彼が、控えめに声をかけて来た。
「その……ごめん。それと……ありがと」
礼に関しては、望んで助けるハメになった訳ではないのだが――何で僕が下敷きになってまでこいつを助けなくちゃならないのか――流石に謝って来た。
その態度に、内心で、怒りを吐き出すように息をつく。
さっきの回復魔法はともかく、奴の右手から、〝闇〟の気配は未だ滲み出ている。
「今の君は、目障りだ」
苦々しく、言い捨てる。
だが、彼が返した言葉は、少々予想外のもので。
「前の僕は、お前と仲良かったと聞いたけど。――もしかして、さっき、前の僕と間違えた？」
「……」
僕が答えずに徒沈黙すると、デュオンは続けて訊ねた。
「そんなに、前と違うのか？」
――そうだね、昔以上に紋章の制御が悪い理由。多分僕は知ってる。
理解は、出来ないけど。
以前のあいつが、今の状況を知ったら、何を言うかは知らない。
――徒、僕は。
例え、今の君が望まなくても。
「僕は……〝今の君〟を殺すよ」
そう、今の状態では駄目なんだ。
「え……どういう意味だ？」
その複雑で単純な理由を、どう表わせばいいかなんて知らないし、言う気もない。
そのまま、背を向ける。
「おい？」
「帰る」
「ちょっ……」
あいつの声は無視して、空間を飛んだ。