希の階３２

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　　　希の階～共に行く者～

　城のテラスでプラチナと二人きりになる。

「ねぇプラチナ。ジェイドの様子はどうだった？」
「ああ、今は落ち着いている」
「そっか。なら良かった。ちょっと心配だったんだよね」
　こっちはサフィの事でバタバタしてたし。
「そうか」

「所でさ――あの天使、変な事言ってたね。プラチナの中に何か在る――とかって」
「ああ」
　プラチナもうなずいた。
「プラチナ、何か解る？」

　プラチナは首を横に振る。

「いや……俺は、俺だ」
「うん、そうだよね。――あの天使の居場所は？」
　そう訊くと。
「目下調査中だな」
　と、答えが返った。
「そっか。支度だけはしておかないとな――」

「兄上」
「ん、何？」
「俺も連れて行け」
「一緒に来てくれるの？」

「当たり前だ。兄上が行くのに俺が行かない訳が無い。――俺はお前の剣となる。――使え」

　プラチナからこんな言葉を聞ける時が来るなんて、思ってもいなかった。

「プラチナ……ありがと。でも無理はするなよ？　お前だって病み上がりだろ」
「だがそんな事も言っていられまい」
「まぁそうなんだけどさ。――せっかく生きてるんだから、勿体ないよ」
　そう言うと、プラチナは徒、沈黙を返した。
「……」

「見付かり次第、出発するよ」
「ああ」
　その時、俺たちの後方から、聞き覚えのある声が掛けられた。

「僕も連れて行ってくれ給え」
「ベリル」

「全てを見届ける事こそが、僕の願いなのだからね。――アレク、僕の願いを叶えておくれ」
　それが、ベリルの願い？

「ベリル……うん、一緒に行こう」

　　　希の階～ベリルの正体～

　雑魚敵は皆に任せて、もう一度、セレスと対峙する。
　〝王の石〟は現在セレスの手にある。
　だけど、負けるわけにはいかない。

「セレス様、もう止めましょう。何度破壊を繰り返しても貴方の望む物は手に入らない」
「そんなこと、無いよ」
　ベリルがセレスを〝様〟付けで呼んでいる。
「ベリル……？　ベリルとセレスって一体……何なんだ？」

　その疑問にベリルは答える。

「僕は〝天から落ちてきた星〟であるセレス様の下僕なんだよ、アレク。セレス様の命令で君達を創った――」

「父上ぇ！？」

「驚くところはそこかい？」
「だ、だって」

「ならアプラサスを絶滅寸前まで追い込み奈落王になったと言う〝星の血を引く者〟とは――」
　プラチナの言葉にベリルはうなずく。
「ああ、僕の事さ。――どう思ってくれても構わないよ」

　セレスが俺に告げる。
「君は徒の僕のスペアなんだよ。アレクサンドル＝パストゥール」
「何だって？」
「たまたま別の魂が入ってしまっただけの……ね」
　その言葉にベリルが反論する。
「セレス様、彼はもう貴方のスペアではありません。一つの命です」
　〝君は、君なんだ〟
　そう言ったベリルの言葉を思い出す。

「だったら、その邪魔な魂を追い出すだけだよ。君達の眼はね……片一方ずつ、僕が作ってあげたんだよ。僕はそれを通して全てを見て来た。君達の感情も全て……ね」
「何だって……？」
　俺は思わず眼をこすった。

「そんな事をしても無駄だよ。それより思い出したかい、プラチナ」
　セレスがプラチナに問い掛ける。

「お前の求める何かは俺の中には在ない。俺は俺だ」

　プラチナはそう答えた。

「そうかい。なら――消えて貰うよ。こんな世界壊して……もう一度一からやり直すんだ」
「そうはさせるか！　俺は今の奈落を守る！」

　俺とプラチナは防御結界をベリルに任せて連携してセレスを追い詰めて行った。

「行くよプラチナ！」
「ああ、兄上」

「二人の力を見せてやる！」

　俺達の攻撃がセレスを襲う。
「ふん、その程度かい」
「まだまだだ！」

　そして二人同時に呪文を編み上げる。

「赤の閃光！」
「青の閃光！」

　何度目……いや、何十度目かの俺達の攻撃に、セレスは膝を付いた。
　だけど……

「傷が……再生していく……？」
「不死なる者でも完全ではないよ。でなければ身体を取り替えようとは思わない」
「ベリル？」

　ベリルがセレスの方へと歩み出た。
「僕が気付かないと思いましたか。貴方がこの奈落を通して誰を見ていたのか。何故理想の世界を創ろうとされていたのか。
けれど貴方の求める者は、何度やり直しても手に入らない――。貴方はもう眠るべきなんです。
僕はもう、人を物の様に扱う様になったそんな貴方を見ていられない――」
　
　
　ベリルは短剣を、動けなくなったセレスの左胸に突き刺した。
　短剣は半分程刃を埋めている。

　セレスが口を開いた。
「アレク、プラチナ。ベリルを哀れと思うなら、その〝王の石〟の欠片を飲むと良い。
それは僕が殺した〝神〟の心臓。そうすれば君達は僕等と同じ死なない存在になる」
　その言葉に、ベリルが辛そうにつぶやく。

「どうして……貴方は最期位……」
「ごめんね……でもこれで君は独りじゃないよ。僕と君の進む道はもう違うんだから。――追ってきたら許さないよ」

　それはベリルに死ぬなという事。
　ベリルの顔が泣きそうに歪んだ。

「セレス様……。――どうか、安らかに」
　短剣が根本まで埋まり、何かが壊れた音がした。

　その時、プラチナがセレスに歩み寄って来た。

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