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希の階 〜広がる世界 ２〜
森の中、テントへの帰り道。
サフィと二人、街で見付けたルビイの事を話しながら歩いていた。
「上手く仲間になってもらえるといいですね」
「うん、仲間が増えるってどんな感じかな〜」
……あう〜……
「……ん？」
「今、何か……」
……うう〜取れないです〜……
「……こっちから聞こえる」
声のする方に足を向けた。
「王子、気を付けて下さいね」
「うん」
がさがさ。
杖の先で、茂みを掻き分けると、ピンクの生き物がいた。
……耳と、しっぽ……？ 顔はフツーだけど、何だろ、これ。
「アプラサスですよ……珍しいです」
サフィが後ろから覗き込んでそう言った。
「アプラサス？」
「強力な魔力を操る古（いにしえ）の種族です。
その肉を食べると、強大な力や不老不死を得られると言う眉つばな噂まで流れて、
現在ではほとんど姿を見なくなっています」
「強くなるの？」
「実際に食べて強くなったという話は聞いたことがありませんが……食べたいんですか？」
「ううん」
俺は首を横に振って、そのピンクの生き物に近付いた。
……罠に掛かってるみたいだ。
「……ハンターの仕掛けた罠のようですね」
「うん。……外せるかな。――大丈夫だよ、ちょっと見せて」
「うﾞう〜〜っ」
「あれ、どうやって外すんだろ」
「……魔法の罠のようですよ」
サフィが指さした所を見ると。
「……あ、ホントだ、こんな所に呪文書いてある、えっと……」
「私がやりましょうか」
「ううん、俺やる。――ちょっと、じっとしてて。いくよ」
意識を集中する。
（――――）
キンッ
弾けるような金属音がして、解錠した。
「やった……攻撃呪文ぶっ放すより、緊張するな〜」
「あ……」
ピンクの生き物は少しの間目をパチパチさせていたけど、直ぐにピョンピョン飛び跳ねた。
「自由なのです！ あなたは命の恩人なのです！ 名前は何て言うのですか？」
でっかい瞳が俺を覗き込む。
「アレク。アレクサンドル＝パストゥール」
「アレク、ですね？ お礼にボクの名前を教えるのです！
アレクがボクの名前を呼んだら、一度だけ、どんな遠くからでも、ボクはアレクを助けるのです！」
「どんな遠くからでも？」
出来るのか？ そんな事。
「はいです。それがアプラサスのやり方なのですよ」
「言霊……ですか」
サフィがつぶやく。
「ことだま？」
聞き返すと、サフィが説明する。
「言葉に込めた魔力を操る、独特の方法です。
強い魔力を持つアプラサスだからこそ出来る……一種の魔法みたいなものでしょう」
「ふーん」
そんなのがあるんだ。
「特に名前には、特別な意味があるらしいですよ」
「名前って、俺のにも？」
「そうなのです、名前はその本質を表すものなのですから、何をするにも大事なのですよ」
そいつは笑顔でそう言ったけど。
「何をするにもって……大丈夫かな、俺教えちゃったぞ」
思わずそう言うと。
「アプラサスは慈悲の生き物なのです。受けた恩は忘れないのです。恩人の名前を悪いコトには使わないのですよ〜」
「そっか、だったらいいや」
ほっとして表情を緩めると、
改めてそいつが俺の正面に立つ。
「アレク、ボクの名前はプラムなのです。必要な時、呼んで下さい。必ず、行くですよ」
「うん、ありがとう」
「それ、私が呼んでも出来るんですか？」
サフィが訊くと、プラムは笑顔のまま、
「無理です〜。呼ばれても行かないですから〜」
「（ガクッ）そ、そうですか……」
サフィはちょっと肩を落とした。
「じゃあ、ボクは行くですよ」
プラムは森を振り返った。
「うん、もう罠に引っ掛かるなよ！」
そう言って手を振る。
「はいです！」
ピンクの生き物……プラムは茂みの向こうに消えて行った。
「アプラサス、か……」
魔人ばかりが棲んでる訳じゃないんだよな……。
この、奈落は。