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希の階 ～広がる世界 １～
俺達は、城から少し離れた森にテントを張っていた。
プラチナも城を出てどこかに潜伏しているらしい。
プラチナと俺は、ほぼ同条件。
俺達は、プラチナに勝つ為、仲間――戦力を集めようと街に向かった。
「――あれ、サフィ？」
何か、凄い人ごみではぐれたみたいだ。
強い奴探すったって、どこ探せばいいか解んないし、こんなに人多くちゃ、サフィ探すのも難しい感じ。
しょうがないなー一旦戻るか。
そう思って、俺はＵターンして街外れに差し掛かった。
その時。
ふいに、頭に影が掛かって反射的に振り返った。
頭上に逆光の影――
「うっ！」
とっさに身体を捻ると、突っ込んで来た奴がマントの端を掠めた。
背中に一対の薄汚れた白い翼。手には短くも鋭い刃。
「――天使？」
初めて見た〝天使〟に杖を構える。
これが、天から降って来るって奴か？
「何で襲って来るんだ！？」
――カミノナノモトニ……！――
「え！？」
呟かれたのは、答えじゃなかった。――魔法！？
「くっ」
転がって、衝撃波を避ける。
「くらえっ！」
杖から放った火炎弾が天使にぶつかる。
だが、天使は炎の中で呻きつつも突っ込んで来た！
――駄目だ、当りが甘い！
「危ないで、坊主！」
――え！？
飛び込んで来た人影と同時に、
レーザーブレードの光が、目の前の天使を切り裂く。
白い羽が散る中、赤いしっぽ髪が逆光に浮かぶ。
天使に止めを刺したそいつは、俺の方を振り返った。
「ケガないか、坊主」
「うん、平気。――お前、強いんだな」
「ま、仕事やからな」
「仕事……」
赤い髪に紫の瞳。緑色の肩布を掛けただけの上半身裸の胸には、ナナメに大きな傷痕が走っている。
年は……多分サフィより下かな。
「なぁ、お前、俺の部下にならない？」
「はァ！？」
早速スカウトしてみると、目をむき出して驚いている。
「俺、今、強い仲間探してるんだ。――継承戦争って知ってる？」
「あー何や王位決めるって奴か。ま、俺ら庶民には関係な……」
「俺、その片割、アレクサンドル＝パストゥール。赤の王子の方ね」
自分を指してそう言うと。
「は？ 冗談きついで坊主」
まるっきり信じてない感じ。
「冗談じゃないってば！ 信じろよ」
「ふ……ん。もしそれが本当なら、俺は坊主を帰さへんで？」
「……え！？」
何か眼が企んでそうな光を見せてる。
「この奈落がどんな場所か、坊主位の年なら解っとるやろ」
奈落の掟――それは、弱肉強食、だった。
「な、俺をどうするつもりなんだよ」
ちょっとだけ身構えながら訊く。
「当ててみぃ、出来たら見逃してやってもええで」
「う゛……ゆうかいしてみのしろきん……だろ！」
そう言うと、相手はうなずいた。
「――正解や」
「でもって、俺の指とか耳とか切り落として城に送り付けて」
「……お゛い」
「身代金つり上げて、俺の事口封じに殺してから城には未だ俺が生きてるように見せかけて交渉を……」
「何でそーなるんや！」
「うわーっ、お前って酷い奴だ！！」
「だーーっ！！ いーかげんにせいっ！！」
俺以上の声量で、相手ががなった。
「え、違うのか？」
「違わい！ えーからもう帰れ！！」
「やだ」
俺は相手の言葉を一蹴した。
「何でや！」
「だってお前信じてないだろ。さっきの話」
「当たり前や！」
「――王子、ここにいらしたんですか」
聞き覚えのある声がした。
「サフィ」
俺は声の方に視線を移した。
「何や、保護者か」
「うん、下僕」
「しもべ……？ まぁ何でもエエわ、はよ持って帰ってくれ」
手でヒラヒラと追い払う仕草。
「サフィ、こいつ俺が王子だって信じないんだ」
指さしてそう言うと。
「あはは、そうでしょうねぇ。でも、ルビイさん、ですよね」
「……何で知っとるんや」
「ここに来るまでに噂を聞きましたから。貴方、強いですね。
信じられないでしょうが、この方は確かに、アレクサンドル＝パストゥール王子です。
この方の首許を見て頂けますか」
「首？」
そいつ――ルビイは体をかがめて俺を覗くようにする。――はっとしたようすだ。
「！ ……マジやったんか……」
「ええ」
「首許って？ え？」
自分じゃ見えないぞ？ 俺は首の所からそれを引っ張ると、何とか確認する。
それは、金色の、目の様にも見える紋様が付いたチョーカーだった。
「王子の付けているその印は、王家の象徴、王族の印なんですよ」
「え、そうなの？」
知らなかった。
「……ホンマに王子か？」
ルビイがジト目で俺の方を見る。
「ええ。大抵の魔人は知っている事ですが、この方は未だ目覚めたばかりですので」
「……年、いくつや？」
「えっと」
「二年程です」
サフィが答えると、ルビイは感心した面持ちで。
「それで、この姿なんか、へー……」
「我々は正式に貴方をスカウトします」
「お断りや」
サフィの言葉に、ルビイは即答した。
「なぜです？」
「俺は俺でやる事があるんや」
「まぁ、今回は急でしたから、直ぐに結論を出せとは言いません。少し、考えてみて下さい。――又来ます」
そう言うサフィにルビイは怒鳴り返した。
「来んな！ 金持ちの番犬なんかご免や」
「私達、結構貧乏なんです」
サフィが真顔で答える。
「もっとあかんやろ！」
すかさずツッコミが入った。
俺はルビイに近寄ると、声を掛けた。
「でも、ルビイ、だっけ。お前が仲間だったら楽しそうだな」
「戦いにそんなん関係ないやろ」
ルビイはあっさりそう言ったけど。
「んーでもさ、やっぱり嫌いな奴と一緒より、楽しいほうがいいじゃないか」
「……」
そう言うと、ルビイはちょっと複雑そうな顔をしていた。