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希の階〜プラムとロード〜
たき火の前で、プラムは切り出した。
「ボクはハンターさんに訊きたい事があるのです。どうしてハンターさんは奇麗ですか？ ボクはせかいで一番みにくくなる様に願ったですのに……どうして前より奇麗ですか？」
「綺麗？ この姿が？ おめーの眼は節穴かっての」
ロードは吐き捨てる様に言った。
「でも……」
「一つだけ言えるのは、俺がこの姿で在るのが一番キツイって事だな。――鏡を見る度に思い出す」
「何を……ですか？」
「俺の相棒。――俺が最初に殺した女。……殺した相手の死に際の顔なんて、いちいち覚えちゃいないけど、あいつのそれだけは……今も夢に見るよ。.――自分のこれから行く所に俺は来るな、とさ。だから俺は今生きてるのかもな」
それは、今の姿がその相棒と同じだという事だった。
プラムがロードを覗き込む様にして見据えた。
「殺した事……反省してるですか？」
だがロードはあっさりと首を振って否定した。
「そんなもんは、してないね。今でも、あいつはバカだと思ってるし、後悔なんてしない。遅かれ速かれ、あんな調子じゃ……俺以外の誰かにやられてたよ」
「……」
「奈落はそういう世界だからな」
その言葉には僅かな悔しさが滲んでいた。
プラムは角度を少し変えて尋ねる。
「その相棒さんの名前は何て言うのですか？」
「……セイラ」
「優しい感じのお名前ですねぇ」
のほほんとしたプラムの言葉にロードは特に感慨もなさそうに。
「そうか？」
とだけ返した。
プラムは少し考え込む様に眉を寄せて。
「でも……ロードさんがその人の事を話す時の顔は、嫌いな人の事を話している顔には見えないです。
それとも、ロードさんは、嫌いな人に程、そういう顔をするのですか？」
「俺がどんな顔だって？」
「大事な人を優しく想う……殺してしまった事を辛いと思っている顔に見えるですよ」
ロードは少し嫌そうな顔をした。
「……そんなん、お前の気の所為だろ。……俺はあいつが妬ましくて……あんな事をしたんだ」
「でも、僕にはそう見えるですよ」
「あっそ」
ロードはプラムから視線を外した。
「……戻しますか？」
「は？」
唐突なプラムの言葉に、ロードは意味が解らないといった風に聞き返した。
「貴方のした事はやっぱり許せないけど……アプラサスが滅びたのはロードさんの所為じゃありませんから。
僕達は弱かった。強くなる努力をしなかったからです。それが僕達アプラサスの選んだ路だったからです。
そんなんじゃ守れない……だから僕は王子と一緒に闘って……気付いたんです。アプラサスとしては失格なのですが……闘って例え誰かを殺したとしても……大事な者を守るって決めたのです。ロードさんもあの時そうだっただけ。……そうじゃないですか？」
「俺にはそんな大層な物は無かったよ。でも……もしこの姿の持ち主が生きてたら、そう言う物になってたかもな」
それは、その姿の持ち主が大事な存在に成り得たのだと認める言葉だった。
初めて聞けた、ロードの本音。
「……僕はロードさんが嫌いなだけじゃなくなったのです……戻しますか？」
「……いいや。このままで」
「いいんですか？」
プラムの言葉に、ロードはたき火を見つめて。
「この姿で過ごして、初めて解った事もあるよ。弱っちくてすぐに折れる腕や、スピードの出ない足、面倒くさい色々な体のこと。
……弱い奴から、強い奴がどういう風に見えるかとか。弱い奴も弱いなりに生きてかなくちゃならないって事。
俺も忘れないようにしたいからな。戻ったら、俺はバカだからそのうち忘れて同じ事をするかも知れない。
大事な物が大事だって解らなくなるかも知れない。だから、このままでいい」
「ロードさん」
プラムは自分をアプラサス……慈愛の生き物としては失格だと言った。
けれど……その呪いの為にロードは結果的に大事な事に気づく事が出来たのだ。
だから……例えやっかいな呪いを掛けた相手だったとしても……
「……でも、お前はやっぱり慈愛の生き物だよ」
「え？」
小さくつぶやいた言葉にプラムが顔を上げる。
「何でもねーよ。ま、これからしばらく宜しく頼むぜ」
「はいです」
プラムはその言葉に小さくうなずいた。
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