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希の階～裏切り～
だから俺、最初は何が起こってるのか解らなかった。
俺に負けて牢屋に在る筈のプラチナが王の広間に在る事。
その身体は真っ赤な血で汚れて、ぐったりと壁に身体を預けていた。
「プ、プラチナ！？ 何があったんだ？」
「速く……行け。……間に合わなくなるぞ」
プラチナは苦しそうにそう言った。
「間に合わないって……何が？」
そして次に起こった事を、俺は信じられなかった。
ジェイドが王冠の〝王の石〟を手にしていて。
「お前、父上はどうした！？」
そう問うとジェイドは顔色も変えずに言い放った。
「ああ、プラチナ様が殺してくれましたよ」
「なっ！」
そしてジェイドの牢を開け放ったのがサフィルスだと言われた事。
プラチナに瀕死の重傷を負わせたのは、サフィルスとジェイドだったんだ。
「そんな……何で」
俺の問いにサフィルスは静かに応える。
「我々も……天上のものだからですよ」
――二人は……天使だったんだ。
隠された、天上と奈落とを繋ぐ扉があって、〝王の石〟はそれを開くための鍵。
二人はそれを使って天の軍勢を奈落に導くつもりだって言う事。
その為に羽根をもぎ、魔人に紛れて……奈落王の力が最も衰える時を待っていた。
「そんな事させないぞ！ 〝石〟を返せ！」
「良いんですか？ ご兄弟を放って置いても。未だ助かるかも知れませんよ？」
「くっ」
ジェイドの言葉に一瞬意識を後ろに取られる。
俺は石を取り返すよりもとっさにプラチナを背後に庇った。
……王としては失格かも知れない。
その隙に二人は走り去ってしまった。
俺達を置いて、〝王の石〟を奪って。
希の階～仲間の痛み～
「ルビイ、――ごめん。お前は忠告してくれてたのに」
バタバタとプラチナの手当をしながら、ろくに説明もせずにそれだけを言うと、
ルビイは少し困った様子で、頭に手をやった。
珍しく哀し気な苦笑。
「済んだ事はしゃーないやろ。それに――仲間疑うようになる坊主は、俺も見とう無いしな」
何となく察してくれている様子だ。
「ルビイ――」
ごめんとか、ありがとうとか、そんな気持ちが胸に詰まって、何も言えない。
「――うん」
手当が終わると、俺は、少し俯く。
「――ごめん、少し、プラチナと二人にして。――少しでいいから」
ルビイはベリルと視線を交す。
ベリルはうなずいて答える。
「あぁ、いいよ。好きにしたまえ」
「外におるから、何かあったら呼びや」
「うん、ありがと」
プラチナだけが、俺の前に残る。
俺は改めて、プラチナを見詰めた。
――未だ意識は戻らず、顔色も青ざめている。
「……なぁ、お前は気付いてたのか？ あいつらの事。だから〝自分以外は気を許すな。例えそれが、どんなに優しい生き物でも〟って言ったのか？」
「……」
勿論、返事は無い。
「だけど、……本当はお前も信じたかったんだろ？ だからあいつに背中見せたんだろ？ じゃなきゃ……こんな怪我、しないよな？」
「……」
「訊きたい事が沢山あるよ……プラチナ……」
胸の奥が、痛くて苦しい。
何が敵で、何が守りたくて俺達は、互いに〝誰か〟を背負って闘って来たんだろう。
「プラチナ、俺、お前の事、護るよ。――お前だって、奈落の住人だろ。俺が……王なら、全部、護らなきゃ。例え……サフィルスやジェイドが――敵でも」
言いながら、何だか泣きたくなる。
「やっぱり、こんなの間違ってると思うから。俺は、今の奈落を護りたいんだ。辛い事も一杯あるけど、俺は、この場所が好きだから」
俺よりも長くて滑らかなプラチナの手をぎゅっと握る。
「だから――死ぬなよ、プラチナ。こんな風に終わっちゃ駄目だ、絶対」
聞きたい事も、言いたい事も、一杯あるんだ。お前には。
世界で唯一、俺と同じ生まれで、立場で、戦って来た。
例えプラチナと俺がどんなに違って見えても。
同じ気持ちや、覚悟で、同じ物を見ていた。
――奈落王になる。
その向こうに見ていた世界は、同じだろうか？
だけど、一つだけ。
プラチナだって、この奈落を大事に思ってる。
それは、絶対同じだ。
「俺は、お前の事、知りたいと思ってた。どんな風にこの奈落を護りたいと思ってるのか。俺と同じ夢を託せるのか。どっちが勝っても恨みっこ無しに出来るかどうか。そして、――お前も、……」
――ここから先は、プラチナが起きてからじゃないと駄目だ。
だから、言葉を止めた。
もし、お前が、ジェイドを敵にしても奈落を護りたいなら――一緒に戦ってくれないか？
――部屋から出ると、ベリルに声を掛けられた。
「もういいのかい？」
「うん、ありがとな。俺、戻るけど――プラチナが起きたら教えて。それと――あいつの部下は？」
「心配しなくても、大人しくしているよ。今の所はね」
「そっちも考えないとなー」
何だか急に忙しくなった感じがする。
「そうだね、でも今日の所は君も休むといい。どちらにしろ今夜はこれ以上動きようが無いからね」
「解った」
部屋で、一人になる。
何だか、色んな事があり過ぎて、頭ごちゃごちゃだ。
サフィの事、プラチナの事、奈落の事。
俺の大事な者――どうすれば護れる？
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