1P
希の階 ～目覚めの世界～
――水の音と 隣の気配と、目を閉じても感じる光。
そして 世界が広がる――俺の目の前に。
「ん……？」
最初に見えたのは、白だった。
気が付くと、目の前に 白っぽい景色が広がっている。
「お目覚めですか、アレクサンドル＝パストゥール王子」
「え？」
声がした方を見ると、白と黒の縦縞の服に、黒のマントを羽織った奴が立っていた。
人の良さそうな微笑を向けてくるそいつは、俺より大分年上に見える。
「おはようございます、王子。初めまして。私はサフィルス＝ホーソンと申します。……ああ、言葉、解りますか？」
「……うん、解るよ」
うなずくと、そいつは微かに微笑った。
「さすが、王族は私達とは違いますね」
……どうやら、白っぽく見えた景色はテントの布で、俺は、テントの中のベッドに寝てたみたいだ。
「……ここ、どこだよ？ お前、何者だ？」
じりじり後退る。
「――そんなに警戒なさらないで下さい」
相手は少し困った風に言う。
「だって、敵かも知れないだろ？」
俺は、こいつの事、知らない。
「私は、貴方の参謀を務めるよう、奈落王から仰せ付けられました」
「――父上から？」
「はい。私は貴方の味方です。……王子」
相手は膝を折って、顔の高さを合わせた。
右目を隠した紫の髪の奥から、深い青の瞳が僅かに微笑む。
「――本当だな？」
確かめるように訊くと、相手はうなずいた。
「ええ、私は貴方の部下です」
「――解った。とりあえず、信じてやる」
「ありがとうございます。私の事は、サフィルスとお呼び下さい」
そう言われて、呼んでみようとしたけど。
「さ、さひる……うﾞ～～言い難い。名前変えろ」
「そ、それはちょっと……」
少し考える素振りの後、そいつは言った。
「では、『サフィ』。で、どうですか？」
「さふぃ……うん、これなら平気だ。――じゃあサフィ、よろしく」
「ええ、こちらこそ、宜しくお願いします……。王子」
サフィの説明によると、ここ『奈落』と、『天上』は敵対していて、
強大な星の力を引く奈落王の力は、天上の天使達から奈落を守るのに欠かせない。
でも、その奈落王の力が衰えて来ていて……今の奈落はあんまりいい状態じゃない。
だから……父上は、後継者を作った。
で。
「――俺に弟がいるの？」
サフィは固い表情でうなずく。
「はい。プラチナ様と言う名前です。
奈落王は、貴方とプラチナ様のどちらか……戦って勝った方に王座を与えるとおっしゃいました」
「戦う……」
「はい」
「プラチナって、サフィは会った事ある？」
「……王城の地下で、貴方がプラチナ様と一緒に在た時に一度、見た事はあります」
俺は疑問を口にする。
「プラチナって、どんな奴？ ……強い？」
「……強いですよ。眠っていても、相当の魔力を感じました」
「そっか……」
サフィの説明は続く。
「銀の髪に青い瞳で――〝青の王子〟と呼ばれています。……王子は紅い瞳ですから〝赤の王子〟です」
「ふーん」
瞳の色なんだ。
「……王子は、覚えてはいないんですか？ 〝青の王子〟の事」
「うん、誰か在た気はしたけど……」
「目が開いていたのは、プラチナ様だけでしたからね」
「え、そうなの？」
「はい」
俺はちょっと考え込んだ。
「……なぁ、お前は父上に命令されて、俺についたの？」
「え？」
「だってさ、話聞いてると、あっちの方が強そうじゃん」
すると、サフィはくすっと笑った。
「……王子はこれからですよ、それに……貴方方のどちらに付くかは、私達が決めたんです」
「そうなの？」
「ええ。王はどちらに付くかは好きにしていいと仰いました。
……向こうには、ジェイドと言うイヤミで性格の悪い同僚がついています」
つんけんした口調に、思わず笑った。
「サフィ、嫌いなの？」
「……気が合わないんです」
「ふーん、まぁいいや。ところでさ、サフィ」
「何ですか？」
実は目が覚めた時から――。
「――お腹空いた」
「あ、そうでしたね、すぐ用意します。待ってて下さいね、王子」
そう言うと、ばたばたと出て行った。
「――サフィ、俺の部下。プラチナと戦う、か……――あ」
聞いた話をまとめながら、気付いた。
「ここ、どこか聞くの忘れた」
テントの外は、鬱蒼（うっそう）とした木々が茂っていた。