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希の階～闘いの行方2～
「……か、勝った？」
「……くっ」
「……」
まるで、あの時とは逆だ。
プラチナの方が膝を付いている。
「――負けたか」
「そうだよ、俺の、勝ちだ！」
「で、どうする」
プラチナの声はやけに冷静に響いて。
俺は一瞬、言葉の意味が解らなかった。
「……え」
「お前は勝った。俺を殺すも生かすも、お前次第だ」
「俺は……」
一瞬、最初に会った時の、ジルの言葉が過ぎった。
〝辛い戦いだな〟
〝考えてみろ、違う道が開けるかも知れんぞ〟
〝ああ、難しい事では無い〟
ジル。お前の言ってた事、難しくないなんて、嘘だよ。
俺には解らない。
だけど、この戦いが〝辛い戦い〟だって言うのは、本当かも知れない。
だって……勝っても痛むなんて、俺は知らなかった。
「……い……嫌だよ。そんな権利、俺は欲しくない」
「ここで俺を見逃せば、俺は又同じ事をするぞ。――王の期限までには未だ間がある」
プラチナの言ってる事は、きっと正しい。
だけど、俺だって、最初、プラチナが見逃したから、ここに在るんだ。
「……それでも、いい。――行けよ」
「……俺の参謀なら、甘いと言うぞ」
「それでもいい！ 行けったら行けよ！」
「……」
背を向けかけたプラチナが、肩越しに視線を向ける。
「……何だよ」
「――一つだけ、忠告する。俺も、お前も、奈落の生き物とは違う。自分以外は敵だと思え。例えそれが、どんなに優しい生き物でもだ」
「……プラチナ」
プラチナは再び背を向け、俺は黙ってプラチナの後ろ姿を見送る。
「……解んないよ。難しいよ。俺には、未だ」
生まれ方が違うのは知ってる。
だけど、何で信じちゃいけないんだ？
プラチナは、何でそう言ったんだ？
「アレク、ちょっといいかい」
横から声を掛けられた。
「ベリル。無事？ みんなは？」
「僕は平気さ。徒、ちょっと困った事になったよ。多少は予想していたけれどね」
困った事？
「何？」
「参謀殿が在なくなった。多分、プラチナ側に捕まったね」
「え！？ 本当？」
「こんな事で嘘吐いてどうするんだい」
「でも、何で」
俺じゃなくてサフィが？
「将を射んとせばまず馬を射よ、とも言うからね。今回狙われたのは、君では無く参謀殿だったと言う訳だ」
「そんな……」
プラチナが……自分が殺されそうになってまで？
「まぁ、未だ決まった訳では無いけどね。自分から姿を隠した可能性もある。ともかく、今は待つしか無いよ」
「うん……」
「君が敵の王子を捕らえていれば、事情は違ったかも知れないけどね」
「う、……ごめん」
思わず謝ると、ベリルは面白そうに笑った。
「あはは、嫌味が通じたかい？」
「借りは返したかったんだけど。俺、馬鹿？」
「今更だねぇ。でも借りって何の事だい？」
あんまり思い出したくない事だったし、俺は首を横に振った。
「ううん、何でもない。……反省してる」
「ま、君が決めた事だからね。とにかく、戻ろうか」
「うん」
夜が来ても、サフィは戻らない。
「やっぱり……困ったなぁ、どうしよう」
「心配かい？」
ベリルの言葉にうなずく。
「うん……それに食事とか連絡とかどーしよ。全部あいつがやってたからさぁ……」
「あぁ、それは確かに大変だ。でも成長するいい機会かも知れないよ？ 仮にも君がリーダーなのだから。参謀殿が在なくても、動ける様にならなくてはね」
「うん……でもさ、何から始めよう？」
「情報収集じゃないかな」
ベリルの言葉に、ルビイもうなずく。
「せやな、何も手掛かりも無しじゃ動けへんわ」
「そうだな、じゃあ皆で手分けして情報収集しよう」
俺がそう決めると、ベリルが質問した。
「場所はどうするんだい？」
俺は少し考えて。
「うーん、そうだな……じゃあ、俺、ルビイと街に行って来るよ。ルビイ、あの街詳しいだろ？」
「ああ、まかしとき」
そう、その場所に詳しい奴が行くのが一番だと思う。
「ベリルは例の温泉街で聞き込み」
「あぁ、承知したよ」
俺はベリルからプラムに視線を移す。
「プラムはここで手掛かり探してみてくれる？」
「ここでですか？」
「うん、正確には……サフィの部屋」
そう言うと、プラムは尋ねた。
「いいんですか？ 勝手に入ったら悪いですよ」
「そうだけどさ、あいつが何してたか調べて、俺達でやんないといけないし。――それにあいつ、ちょっと変だったんだよね」
「変？」
俺はうなずいて。
「うん、何か黄昏れてたし――かと思ったら、今朝は変にやる気だったみたいだし。ちょっと気になってさ」
「おうじ……」
「そう言われれば、今朝は多少参謀殿らしくなかったかも知れないね」
ベリルもそう言った。
「何か理由があったって言うんか？」
ルビイの問いの答えは、解らなかったけれど。
「とにかく、俺が許可するから。頼むよ」
「解ったです」
プラムはうなずいた。
「じゃあ今日はここまでにして、解散しようじゃないか。――アレク、参謀殿が在ないからって、夜更かしはしないようにね」
「ちぇ、ベリルまであいつみたいな事言うなよなー。解ってるってば」
「――心配してるんだよ」
「解ったって」
俺は、皆と別れて、自分のテントに向かった。