仲間と呼ぶ存在（もの）
「おいデュオン起きてるか？」
「……ああ、何？」
ベッドから起きあがると、ビクトールが部屋に入って来た。
「寝てたのか？ 大物だな。お前に渡したい物があってな。ソニエール監獄から俺が持って来た物だ」
「これは……」
ビクトールが差しだしたのは、銅の斧だった。
「グレミオの斧だ。お前を哀しませまいと思って、今まで隠していたんだが……」
「ビクトール……そうか、あの時……」
引き返していったのはそのためだったのか。あの時のことを思い出し、納得する。
ビクトールは普段は大ざっぱなくせに、妙な所で気遣いの出来る奴だ。
――誉めてるんだぞ？ 一応。
「明日は大きな戦いになる。だから今夜の内に渡しておこうと思ってな。――デュオン、立ち止まるなよ。多くの犠牲になった奴等のためにもな」
「ああ。わかってる。――ありがとうな、ビクトール」
「いや、今夜ははやく寝ろよ」
「ああ」
僕は決意と共にうなずいた。こうして気遣ってくれる仲間がいる。
お前達がいるなら、僕は未だ、進めるさ。
仲間と呼ぶ存在（もの）
僕にはもう一人話しておきたい相手がいた。
フリックだ。
部屋を抜け出すと、その姿は割とすぐに見つかった。
「フリック……ちょっといい？」
そう声をかけると、相手は気さくに応じた。
「ああ、どうした？」
湖が見える窓辺に陣取ると、僕は本題から言った。
「フリック、ゴメンね、恨んでもいいよ」
「何がだ？」
問い返すフリックに、僕は何度か息を呑みこんだ後、やっと告げた。
「オデッサさんの魂も……この紋章が喰らってしまったらしいから……」
まともに視線を合わせられずに、紋章に視線を落とした。
「デュオン、お前のせいじゃない」
「でも……」
言い募ろうとすると、それを遮るように。
「挨拶……させてくれるか？」
その言葉には真摯な優しさが込められていた。
正直、紋章に触れさせるには少し抵抗があったのだけれど。
「……ああ」
そう言って手を差しだすと。
「ありがとう」
フリックが僕の右手をそっと捧げ持つように取った。
「……」
何を話しかけているのだろう。
僕は徒それをじっと待った。
やがてフリックが顔を上げた。
「俺は……大丈夫だ」
きっぱりとした表情で、そう言った。
僕はフリックに恨まれていなかったことに少しホッとしながら。
「そう……良かった、明日は頑張ろうね」
「ああ」
そしてやっと成立した、リーダーと副リーダーとしてうなずき合い、軽く拳を打ち合わせた。