仲間と呼ぶ存在（もの）
それから三年後。旅先のバナーの村で釣りをしていた時。
「久しぶり……変わりはないようだ……」
「ルック……」
覚えのある声に振り返ると、懐かしい顔ぶれだ。
その時、後ろにいたメンバーの中に意外すぎる顔を見付けた。
僕は飛び出すなり二人を引き摺るようにして、物陰に消えた。
「！！ フリック、ビクトール……お前等生きてたのか……！？」
「いやーーーちょっと手違いがあってな。まぁ俺達があんなことで死ぬかよ」
ビクトールがのんきとも言える口調で言う。
「お前のせいだお前の！ 全くあんなことで死人にされてたまるかよ」
フリックがビクトールを指さして怒った口調で言った。
「どういうこと……！？」
そう問い詰めると。
「いやこいつが連絡入れとくって言ってたんだがな……」
ガンガン！
フリックの言葉が終わる前に、棍が二人の頭を直撃した。
「痛って～」
フリックが頭を押さえる。
「天誅だよ」
「そんなに怒るなよーー」
ビクトールの言葉は無視して背を向けた。
「……」
全く、心配したこっちがバカみたいだ。
〝――あんな連中、心配するだけ馬鹿だと思うけどね。〟※解放戦争の出会い編９参照。
これに関してはルックが正解だったみたいだな。
仲間と呼ぶ存在（もの）
夜、アース城でフリックを見かけた。
「フリック、ちょっといいか」
「ああ、又来てたのか」
そう、城主であるリアンに頼まれて、僕はちょくちょくここに来ていた。
「うん、ちょっと屋上でも行かない？」
「ああ、構わないが」
屋上で夜風に吹かれながら、本題を切り出した。
「フリック、これをお前に……」
そう言って手を差しだすと、フリックはそれを見て驚いたようだった。
「これは……」
「オデッサのイヤリングだよ。もう、僕が持つ必要はない。理想の国を作りたいんなら自分でやってみたらどうだ？ 元副リーダー殿」
そう言うと、フリックは少し困った様子で。
「デュオン、俺は……そんな器じゃない」
「ふうん、そんな自覚はあるんだ」
横目でそう言うと。
「煩い、お前珍しく意地が悪いぞ」
「仕方ないだろう。それと……オデッサさんからの伝言だよ。〝あなたの優しさはいつも、いつだって私を慰めてくれた〟……」
僕が真っ直ぐにフリックの瞳を見詰めてそう伝えると、フリックの瞳が遠い眼差しで揺れる。
「オデッサ……」
「本当は、もっとはやく伝えようと思ってたんだけどね。最初は話せるような雰囲気じゃなかったし、その後は色々ゴタゴタしてたし、グレッグミンスター脱出以降連絡が取れなかったから」
ため息をついてそう言うと、フリックは言葉を詰まらせた。
「う……それは悪かったと思っている」
「全くフリックは人を見る眼がないね。ビクトールなんかいかにも忘れそうじゃないか。だから副リーダー止まりなんだよ」
「デュオンお前……実は凄く怒ってるだろ」
その言葉にフリックを見上げる。
今なら、見せられるだろうか。ありのままの自分の気持ちを。
「――当たり前だよ、心配したんだからな。お前達の魂までソウルイーターに喰われてしまったんじゃないかって気が気じゃなかった。――正直に言うと、怖かったよ」
フリックのマントを掴んで率直な言葉を綴ると。
「済まなかった、デュオン」
フリックは素直に謝った。
僕はそのままフリックに頭をもたせかけ、つぶやくように言う。
「……最初は正直言って、オデッサさんの伝言の意味が解らなかったんだ。だけど……今なら解るような気がするよ。お前は……優しくていい奴だ。……フッチにテッドのことを伝えてくれたのもお前だったんだろう？」
「ああ、まぁな」
「それにグレミオが生き返った時に言ってくれた言葉も……本当は嬉しかったよ」
僕はそう言って顔を上げ微笑む。
「素直に受け入れることは出来なかったけどな」
僕はそう苦笑してフリックから離れた。
「実を言うとさ、ずっと見栄はって無理をしていたんだ。大事な人達を失くした時は泣きたかったし、弱音も吐きたかった。グレッグミンスター城脱出の時だって、本当は止めたかった。これが、〝少年としての僕の気持ち〟だよ。――お前に失望されるのが怖くて、ずっと言えなかったけど。――多分、リーダーじゃなくなった今だから言えたんだ。――失望した？」
軽い調子で笑顔を作ろうとしたけれど、多分失敗していただろう。それでもこれが、多分オデッサさえも言うことが出来ずに終わってしまった、リーダーではない自分としての本音だ。
フリックは静かに首を横に振った。
「いや……デュオン……ありがとう――やっと言ってくれたな」
フリックはそれだけ言うと、僕の肩を軽く抱き寄せた。
「フリック？」
「無理ばかりさせて済まなかったな。お前は俺よりずっと――年下だったってのに」
その言葉に僕はほっとして本当に微笑った。
「いいよ、もう。――生きてたんだから」
「ありがとう。――デュオン」
フリックはもう一度礼を言い、軽僕の肩を叩いてから手を離すと、視線を遠くへ投げた。
「……けど……」
フリックが何か考え込んでいる。
「何？ フリック」
そう水を向けると。
「お前……どうしてあの国を継がなかったんだ？」
フリックは決意したように、問い詰める口調でそう訊いた。
それは副リーダーとしての眼差しだった。
「……解らないのか？」
少し不満と呆れが入った表情で、僕は聞き返した。
「ああ」
その答えに僕も強い眼差しでフリックに向き直る。
「あの国をソウルイーターを中央に据える国にはしたくなかったからだよ。あれは身近な者の魂を奪う――僕にはそれを背負って国の中央に立つことなど出来なかった。――生死不明になったお前等のせいでもあるんだからな？」
僕は後半、責めるような拗ねるような口調で応えた。
「う……それは………」
フリックは言葉に詰まる。
「それに……確かめたいことがあるんだ」
「確かめたいこと？」
僕はほのかに微笑ってうなずく。
「ああ……マッシュとの約束でね。――だけど解らなくてもいいよ。僕は……お前達の期待を背負えるような人間じゃなかったってことだけだから」
「デュオン……？」
フリックの不思議そうな呼びかけに、僕は約束の内容は言わず、徒、謝った。
「ごめん、フリック」
こればかりは、マッシュと自分、そして聞いていたリュウカンだけの秘密だ。
そんな僕にフリックは首を振って。
「いや……お前のことだから、それなりの理由があるのだとは思うが……悪い、俺にはよく解らない」
「だから、解らなくてもいいって言ったろ？ あの国は、人が回していけばいい」
「……理想の国、か……」
フリックは考え込むようにつぶやいた後、僕に手を差しだした。
「このイヤリング……半分お前が預かっていてくれないか。俺が彼女に相応しい男になれるまで……」
「いいけど。死ぬ前に取りに来なよ？」
横目で少し疑うような僕の言葉に、フリックは真っ直ぐに応えた。
「ああ、勿論だ」
僕はその言葉に少し微笑んで、イヤリングを受け取った。