Ｐ８
謎かけの問い～来栖編～
あいつは知らないと言っていたけれど……あのペンダントを持っていたと言う事は……何か知っている可能性が高い。
もしかしてあいつは……。
――だが、直接訊くのは危険――というより、昨日の様子からして、訊いたところで絶対に答えないだろうしな……。
……カマ掛けてみるか……。
俺は珍しく朝っぱらから学校に出向いた。教室を探そうかと思ったが、丁度、学園長室から出て来る御園生を見掛けた。
――何の用か知らないが、朝からご苦労な事で。
「逢坂さん？」
俺に気付くと、驚いた様な表情で足を止めた。
「俺の顔に何か付いてるのか？」
「いえ、こんな朝から姿を見掛けるのは珍しいと思ったんです」
「俺だって、たまには一限目に間に合う事もあるんだよ」
軽口で応じる。
まさかお前の正体探りに探りに朝っぱらから来てるとは言わねーし、言えねーだろ、そもそも。
「たまに……ですか？」
「そ、年に二、三回」
そう言うと御園生が軽く吹き出した。
「笑ったな。まぁいいや。それよりお前に見せたいモンがあるんだ。付き合えよ」
「僕に……ですか？」
「ああ」
「今すぐ？」
「ああ。それとも授業サボるなんて事、お堅い優等生には出来ねーか？」
「そんな事ありませんよ」
御園生は少しムッとした風に言い返してきた。
俺は御園生を連れて図書室に入った。
「図書室だったら、わざわざ授業をサボらなくても……」
御園生は多少不満そうに呟いた。
「休み時間は図書委員や先生がいてウザイからな」
俺は一冊の本を出して来て、御園生に読ませた。
『ウィンフィールド王国記』。
ウィンフィールドに迷い込んだ人間が記したとされる本だ。
〝この地球上に此処とは隔絶された違う世界が存在し、其処の王族男子には、必要に応じて現れる白い翼がある〟
「白い……翼……？」
御園生は問うような視線を俺に向けたが、俺は特に答えなかった。
〝白い翼が崇められる一方、時々生まれる黒い翼を持つ物は、不吉の前兆とされ、忌み嫌われ、迫害されていた。密かに王族関係者が暗殺しているという噂もある〟
「黒い……翼……」
御園生は何やら深刻な表情で呟いている。
〝旅人は異世界の住人である事がバレて王の前に突き出されたが、王の力によって元の世界に帰された〟
〝旅人は誰も信じようとしない自分の体験を仕方なく一冊の本に記した――〟という内容だ。
「読み終わったか？」
声を掛けるとはっと顔を上げた。
「ええ……」
「どう思った？」
「――三流のファンタジー小説ですね」
「作り話……だと思うか？」
「当たり前でしょう。王の背に白い翼……なんて」
微妙に落ち着きが無い。不自然に視線を外しているみたいだ。
「思い当たるフシはないか……？」
そう言ってじっと見詰めると、
「僕は……何も知らない！」
そう言い捨てて、逃げる様に去って行った。
「……」
これ以上訊いても、今は無理か……。
前のページへ 次のページへ 目次へ 入り口へ戻る トップページへ戻る