AF前を向く真実

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    地下空洞にて〜翔編〜


ドカーン!

 ガラガラと瓦礫の落ちる音がした。

「爆発……しちまった……」
 逢坂先輩は呆然として呟いた。

「くそっ!!」

 俺は何も出来なかった苛立ちを隠せずに地面を蹴り飛ばした。
 爆発が収まったのを確認してから、先刻の部屋に戻ってみると……。

 櫂が呟く。
「何も……残らなかったのか……」
 ああ、ランも黒い翼の持ち主だからか……
 そう思って爆発の中心辺りに眼をやると。
 ぼろぼろになった黒い塊……その塊が灰になってザッと風に流れる。

「あ! 見て! 何か……何かいる!」
 杏里の言葉に視線を向けると。
「え?」
 灰の中に、うずくまるレイヤードがいた。
「レイヤード!!」
 オレたちはレイヤードの側に駆け寄った。

「レイヤード! おまえ、無事だったのか……」
 俺がそう言うと、レイヤードの静かな声が返った。
「ああ……そのようだな」
「あの爆発で……よく……」
 東堂先生の疑問はそのまま俺達全員の疑問だった。
「たぶん……ランが……」
「え?」
 
「いや……なんでもない……」
 レイヤードは言葉を濁したが、言いたいことは何となく解ったので黙っていた。

 杏里はにこにこしながら言葉を掛けていた。
「よかった。レイヤードさんが助かって」
「そうかな?」
 少し皮肉げな言葉が返って来た。
「え?」

「クリストファー……翔、櫂、頼みがある」
 レイヤードの言葉に先輩が応える。
「なんだ」
「私をここで殺し……そして、黒い翼も全部、殺してしまってくれ。太陽神を手に入れた、お前たちならできるはず」
「なんで……?」
「われわれは生まれるべきではなかったのかもしれない。周りを不幸にし、そして自分たちも決して幸せにはなれない」
「不幸を呼ぶだけの存在なら、消してしまった方がいい。こんな苦しみは、私の代で終わらせてしまいたい」

「ダメだ!」

 俺は思わず叫んでいた。
 レイヤードが不思議そうに聞き返す。
「翔?」
 だけど俺は言葉を止められなかった。

「ダメだよ! 黒い翼が生まれなければいいなんて、そんなのダメだ! オレ、うまく言えないけどそれだけはダメだって、そう思う」
「おまえには分からない。黒い翼の苦しみは。苦しいだけの人生なら、最初からない方が……」
「ホントに苦しいだけだったのかよ? いいことはひとつもなかったのか? オレたちだって、幸せな時 ばっかりじゃなかったんだぜ?苦しいこともつらいこともあった。けど、オレは生まれてこなけりゃよかったなんて、一度も思ったことはない!」

 杏里が俺に賛同してくれた。
「僕も! 僕もそう思う! 僕、いっぱいいじめられて、死んじゃいたいって思ったこともあったけど、でも、がんばったんだ、生きてれば、きっといつかいいことがあるって。だから……」

 そして櫂も、櫂らしい言葉を紡いだ。
「凪は、つらくて哀しい人生だったけど……でも、それでも死ぬ前に、僕に会えて幸せだったって言ってくれた。自分はともかく、ほかの黒い翼の人生まで、抹殺してしまう権利なんて、あなたにはないはずだ」
「だが、おまえの両親を殺したのは、黒い翼だぞ」
「それは……」

 少し哀しげに言葉を切った櫂に続いて、逢坂先輩が何処か吹っ切れた様子で話し始めた。

「オレの両親も黒い翼に殺された。けど、両親を殺したルカもカレンも死んだ……長い歴史の中には、そうやって悔しい思いをしながら死んでいった黒い翼はたくさんいるはずだ。だけど、そいつらだって、精一杯生きようとしたんじゃないのか? 黒い翼で迫害を受けても、それでも幸せだと感じる瞬間もあったんじゃないのか? 世界の上では、沢山の人が生まれ、死んでいく。それぞれが精一杯の人生を生きていたのにおまえひとりの独断で、それをチャラになんてしていいはずがない!」
 俺は先輩に続いて言葉を続けた。
「あんたは償わなきゃなんねーよ。直人も凪も……新島先生や寝屋川先生達も、あんたのためにしんでいったんだから……。こんな所で死んで、それですむって思うな!一生かけて、あいつらに償え! 今まで犠牲にして苦しめてきた人たちのために働くのが、本当の償いだろ!」

 櫂が少し驚いた風に呟いた。
「翔……おまえ……」

 先輩はその言葉の続きを継いだ。
「迫害受けて、死んでいった黒い翼はかわいそうだけど……だけど……その人たちの辛さを糧にして新しい未来を築くことが、オレたちの使命なんじゃねーの? 黒い翼も、白い翼も、翼のない人間も……全部が幸せになれる未来を作ることがオレたちの仕事で、殺しちまえなんてのは、『逃げ』でしかないんだぜ」
「逢坂先輩も、翔くんも……カッコイイ……」
 先輩は続けて前向きな言葉を発した。

「暴走の制御方法だってあんた、ほんの20年ばっかり研究してただけなんだろ? そんなんで諦めんじゃねーよ。人間の世界の科学は、すごいことになってんだぜ? 研究し続けりゃなんとかなるって」

「何か方法があるはずだよ。現にレイヤード、あなたは暴走したけどまだ生きてる」
 櫂の指摘にレイヤードは言葉を呑んだ。

「……ッ!」

「僕だって暴走したけど翔たちのおかげで止めることができた。何か方法があるはずだよ。死ぬためだけに生まれてくる種族なんてないはずだから」

 櫂の言葉に続けて、逢坂先輩が宣言した。

「オレは、黒い翼が迫害されない、平和な王国を作る。『暴走』については制御方法が見つかるまではちょいキツイけど、何とかしようぜ」
 すると櫂が横から口を挟んだ。
「翔、千倉、よかったな。逢坂さんが王位を継いでくれるそうだ。僕たちは王様にならなくていいみたいだ」
「ばっ……オレがいつ」
 ちょっと慌てて言いよどむ先輩に、水落先生が説明口調で告げた。

「今のセリフは、どう考えても王位を継ぐ決意を固めたとしか思えませんでしたよ? クリストファーさま」
「御決意、嬉しく存じます、クリストファー殿下……いえ、陛下」
「紫苑!」
「がんばってね、逢坂先輩。黒い翼の人たちを、幸せにしてね」
「勝手に決めるな!」

 先輩は皆の言葉にいちいち反発していたけれど。

 俺はずっとウィンフィールドの事を考えていた先輩の事を思い出していた。
「逢坂先輩が、一番王様に向いてるって。それに、オレは剣道部を全国に連れて行かなきゃならない使命があるんですよ。……直人のためにもね」

 続けて櫂が辞退の意を表明した。
「僕は、御園生コンツェルンを立て直さないと。社員の生活がかかってるし」
「ぼ、僕はダメだよ! だって、僕の翼は『ぴよぴよ』なんだから……」
 杏里も逃げ出すようにそう言うと、先輩はいかにも仕方なさそうに盛大にため息をついて。

「わーったよ。王様になりゃいいんだろ、王様に。なってやるよ!」
 と宣言した。

「クリストファーさま」
「けど、オレは、ガキの頃から人間界で育ってっから、王国のことなんかなんにもわかんねぇからな。手伝えよ、紫苑!」
「喜んで、お手伝いさせていただきます」
「それと、そこのおっさん! レイヤード!」
「私が、何か?」
「おまえも手伝えよ!」
「私が?」
「黒い翼まとめられんのは、おまえしかいねーだろ? あげく親戚だっつーんなら、手伝う義務は大ありだろ? 一緒に、白い翼と黒い翼が共存できる王国を作ろうぜ。その方が、世界征服なんかより、ずっとおもしれーぞ、きっと」
「ずっと、難しそうだがな……いいだろう。協力しよう、逢坂くん。……いや、クリストファー国王陛下」
「その呼び方はよせ! 鳥肌が立つ!」

オレたちは、太陽神の力を再び封印して、協力してくれた精霊達とも別れを告げた。

 「終わったな」
 俺がそう言うと、先輩が僅かに肩をすくめて。
「ここからがまた始まりだけどな」
「これからが大変なんですよ」
 東堂先生の言葉に逢坂先輩は投げやり気に眼を閉じた。
「わかってるっての」
 櫂も少しほっとした様子で。
「ようやく日常にもどれるよ」
「お母さん心配してるかなぁ」
 杏里の言葉に水落先生が続ける。
「戻りましょうか……人間界に」
「んじゃあ、ワープゾーン、作ってやるからな」
「逢坂先輩も、一度人間界に帰ってくればいいのに」
 杏里の言葉に先輩はちょっと下を向いて。
「そっちのが楽だからな……帰っちまうと、戻りたくなくなっちまいそうで」
「東堂先生も……?」
「俺の役目は、常にクリストファーさまのそばにあること……ですから」
「ふん」

「水落先生は?」
 櫂が尋ねると。
「私は一度戻ります。真理さんのお墓に報告もしたいですし」
「そのあとは……? 学園の先生に戻るんですか」
「さあ……どうしましょう」
 水落先生は言葉をにごした。

「それでは、クリストファーさま」
 東堂先生の言葉に先輩はナイフを取り出しかけて。
「痛てーんだよな……あ、そうか……羽村、御園生、おまえたちも王家の血を引くんだから、できるかもしんないぜ。やってみろよ」
「え!?」
「ほら」

 ナイフを先輩から受け取ったものの……。

「切るんですか?」
「コワイ?」
「んなわけねーよ!」
 からかうような先輩の声音に、俺は意地になって言い返した。

「じゃ、行きたい場所……学園の庭でも思い浮かべながら、指を切って」
「オッケ」
 覚悟を決めて、指を切って血がしたたり落ちると……
「あれ?」
 ワープゾーンは出来るが、これじゃ人一人通れない小さめなサイズで……
「ちっちゃい。やっぱ、オレ、ハーフだからかな……」
「ナイフ、貸して」
「え!?」
 櫂は、抵抗もなく自分の指を切り地面に血がしたたり落ちた。

「櫂……」
 オレの作ったワープゾーンの倍に大きくなった。

「さすが双子……二人で一人前ってことか?」
「うるせー」
「消えないうちに飛び込んだ方がいいんじゃない?」
 櫂の言葉で其れを思い出した。

「あ、ああ……そうだな。逢坂先輩、東堂先生……お元気で」
「ときどき、遊びに来てね。約束だよっ!」
 杏里がそう言うと、水落先生は先輩と東堂先生に向かって。
「活躍を期待しています。クリストファー殿下、紫苑中将」
「ま、がんばってください」
 と櫂が軽めに言うと先輩も軽い調子で。
「おめーらも、元気でな」
「ときどきは、王国へも遊びに来てください」
 東堂先生の挨拶が終わると水落先生が最後を締めくくる。
「それでは、ワープゾーンが消えないうちに……」
「帰るぜ。オレたちの学園に!」

オレと櫂が作ったワープゾーンを抜けて、オレたちは遊星学園に帰ってきた。

 すると、意外な事が解ったんだ。

 直人が、恐い物見たさで洞窟に様子を見に来ていた学園生のお陰で、一命を取り留めていたんだ。
 オレは何よりそれが嬉しかった。
 そして、オレたちの新しい生活が始まった。


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