Ｐ５３　

　前のページへ　目次へ　目次２へ　入り口へ戻る　　トップページへ戻る

　翔の言葉に思わず苛立ちが口に出る。
「わかんねーよ！　くそっ！！いったい、どーなってるんだ、この国は？」
クリストファーさま。とにかく……太陽神を復活させましょう。そうすれば、何か分かるかもしれません」
瀬那の言葉に頷く。
「ああ……今は、それっきゃないか……行くぞ、封印の部屋に」

「最上階についたのか？」
「ああ」
　だが其処には既にレイヤードが立っていた。
「ふっ六精霊の復活、ごくろうだったな。この後は私にお任せくださると、ありがたい」
「何だって！？」
「太陽神の復活は、われら黒い翼にとっても必要でね。強い者が弱い者を踏みつけて幸せになる……それがこの世の習いだ。だから、私は強くなる。邪魔なおまえたちを踏みつけてな！」
　レイヤードは容赦ない攻撃を仕掛けてきた。
「うわっ！！　な、何て強さだ……」
　レイヤードに通常の攻撃は通用しなかった。
　紫苑が叫んだ。
「みんな、精霊を召喚するんだ！」
「はいっ！」
　ごごごご……と地響きの様な音がした。
　同時に全員の精霊が光り出した。
　だが、封印の扉が開いても、何も起こらなかった。
「どうしてどうしてどうして？　六精霊を集めたら。太陽神が復活するはずなんでしょう！？」
　千倉の戸惑いは皆も同じだった。
「なぜだ！？　なぜ太陽神は復活しない！？」
　レイヤードにも解らない様子だった。
　すると扉の前にかつて太陽神とともに戦った勇者の白影が現れた。
　そして、太陽神はもう存在しないのだと告げた。
「……ばかな……神話では太陽神が黒い翼の呪いを解いてくれると……暴走をとめることができると……」
　オレたち以上にレイヤードは動揺を見せていた。
　今のが本音だとすれば、レイヤードは世界征服ではなく、暴走を止める手だてを捜していた事になる。
「暴走は呪いではない。黒い翼の一族は強すぎる力を持ってしまったために制御しきれず死へ向かわざるを得ない種族だったということだ」
「そんな……我々は死ぬために生まれてきた種族だというのか！　それが神の意志だったのか！？　所詮神話などおとぎ話にすぎないということか……」
「しかし『呪い』は実在する。封印が弱まって漏れだしたのか……情念がお前の周りに渦巻いている。これこそがお前達が言う『呪い』だ」
　勇者が腕を振ると、レイヤードの周りに黒い影の様なものが渦巻いていた。
「あの黒い影が『情念』……？」
　オレの言葉に櫂が口を開いた。
「僕は月の精霊に聞いた。憎しみや、恨み、ねたみ……人々の悪い感情が変質して形になったもの……」
　勇者が言葉を続けた。
「そうだ、はるか昔…『情念』は黒い翼に取り憑いた。黒い翼の長年の恨みが、『情念』を引き寄せた……といってもよい。太陽神はそれを地下深くに封印したが……力尽き、分裂してしまった。その時に現れたのが、六精霊だ。ゆえに……その時から太陽神は存在しない。太陽神はその姿は存在しないが、力は残っている。力を受け継ぐ勇者が現れれば、太陽神の力を具現することができる。私がそうしたようにな」
「でも……あなたはさっき、封印が弱まってるって……」
　櫂の言葉に勇者は応えた。
「とても大きな邪悪に引き摺られて私のかけた封印が弱まってきている。もし封印が解かれて情念が解放されたら……情念にとりつかれた人々の心は憎悪で埋め尽くされる。人格が凶悪化し最後の一人が死に絶えるまで殺戮を繰り返す」
「そんなことになるまえになんとかしなきゃ！」
　翔が少し焦った風に叫んだ。
「私は闘いを終えるとともにもう一つ封印を施した。それがこの封印の扉だ。この世界が再び争いによる混乱に陥ったとき、正しい心を持った勇者を支えてくれる力になるように太陽神の力を此処に封印した。お前達は六精霊に選ばれた者たち。太陽神の意志を、そして私の意志を継げるもの。人の悲しみを拭うために戦う勇者にこの力を授けよう」

　其処で勇者の言葉のトーンが少しだけ下がった。
「しかし……銀髪の……」
「オレ？」
「そう……おまえだ。おまえが一番力が強いが……それでも……太陽神の力を受け止めるのに充分とは言えない……」
「充分じゃないと、どうなるんだ？」
「力を受け止めきれなかった場合は……その先に待つものは、おそらく……死……、それでも……」
「だけどっ！　オレが一番強いんなら、オレがやるしかないだろ？ためしにやってみようぜ」
「いけません、クリストファーさま！」
「おっさんは黙ってろ！」
　そう言うと、瀬那が続けて口を開いた。
「黙っているわけにはいきません。死んでしまう確率の高い賭けをあなたにさせるわけにはいけない」
「そうだよ！　先輩にもしものことがあったら……僕……」
「けど、他に方法がねーだろ？　何のために六精霊集めたんだ？」
「だからって！　先輩犠牲にするわけにはいかない！」
「そうです。それに、ダメだった場合、事態はもっと悪くなるんですよ」
　俺達がもめていると、勇者が翔と櫂に意識を向けた。
　
「？　……おまえたち……」
「オレたちですか？」
「不思議だ……お前達二人……まったく同じ魂をしている」
「双子……ですから」
　櫂がそう言うと、
「そうか……それならば……ひとりでは受け止められない力も、二人ならば受け止められるだろう」
「そうなんですか？」
　翔の言葉に勇者は頷いた。
「違う人間二人に召喚させることはできないが、同じ魂を持っているのなら……」
「可能……なんですね？」
「可能だ」
「よっしゃあ！　やろうぜ、櫂！ 二人ならだいじょうぶなんだ！」
「ああ、やろう！」
　オレはすっと身を引いて従弟達に場所を譲った。
「お願いします」
　翔が頭を下げた。
「分かった。そこに立て」
「はい」
　翔と櫂の身体の周りに六精霊からの光が集まって、身体を包みこみ、儀式は完了した。
そして勇者の光も役目は終わったと消えて行った。
　

　前のページへ　次のページへ　　目次へ　目次２へ　入り口へ戻る　　トップページへ戻る