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月の精霊は物静かな物言いで、其れでもはっきりと意見を告げた。
「私は一度、黒い翼の守護精霊となったもの。いくら時間が流れたからと言って……黒い翼を殲滅する者に力を貸す訳には行きません」
みんな、白い翼も黒い翼も人間もみんなが平和で幸せになるようになる事が望みだと、必死になって説得した。
すると。
「貴方も同じ考えですか？」
「え、僕ですか」
「不思議な人だ……明らかに白い翼の持ち主なのに、何故か黒い翼の香りがする」
「黒い翼の香り……」
確かに僕は〝暴走〟したり、本来白い翼が使えない魔法を使えたりする。
黒い翼の方に近いと言えばその通りだ。
「櫂、貴方の考えが聞きたい。二人で話してもよろしいでしょうか」
「はい」
「不思議な人だ……貴方の心の中は黒い翼への憎悪と、同じくらいの愛情があるように思える……何故ですか」
流石精霊さま。詳しい事情は知らなくても心を見透かされた感じがある。
僕は凪の事を話していた。
親友の凪は、実験で黒い翼を持った者。
戦いの中、最後に僕に攻撃せずに自分を攻撃した事。
一通り僕の話が終わると、月の精霊が口を開いた。
「昔話をしましょうか……」
昔、月の精霊には、黒い羽根を持つ恋人が在て。
『暴走』したその人を、月の精霊は殺した。
「暴走したら、他の誰かを傷つける前に殺してくれ」と頼まれていたから。
「辛かったでしょう……？」
「ええ……ですが迷いはしませんでした。其れがあの人の願いでしたから」
こうして月の精霊は黒い翼を守護する様になった。
黒い翼はその『暴走』という宿命故に周囲から迫害されていた。
そして長い間に蓄積された憎しみが黒い負の『情念』となって黒い翼に取り憑いている。
「暗い……負の情念……」
「私は、黒い翼を救いたい……もちろん、それは白い翼を倒しても……と言う意味ではありません。貴方の仲間達が言っていたように、白い翼も、黒い翼も、そして人間も……幸せに暮らせる世界にする事が出来れば、どんなにか素晴らしいでしょうね」
「月の精霊さま……」
僕は垣間見た憎しみの表情をした凪を思い出していた。
あれが、『負の情念』に取り憑かれていた状態なのだろうか。
だとしたら……其の『負の情念』を何とかしなければ。
「ありがとうございます。少し……吹っ切れた気がします」
僕は月の精霊に頭を下げた
「凪の事で怒りばかりに囚われていた僕は、『負の情念』に取り憑かれていたのと同じ状態だったのでしょう。でも凪はそんな事は望んでいない。僕が『負の情念』に取り憑かれる事を凪は決して喜ばない。白い翼も、黒い翼も、そして人間も……幸せに暮らせる世界にする事が出来れば、きっと凪も喜んでくれる……そう思える様になれました。」
月の精霊は静かに微笑んだ。
「貴方の守護精霊になりましょう」
「なって……くれるんですか？」
「はい。貴方と貴方の仲間なら、黒い翼と白い翼の悲しい歴史に幕を下ろしてくれるような気がします。そして、新しい歴史の幕を開けてくれると」
こうして僕たちは六精霊全てのの封印を解き、其の加護を受ける事が出来た。
後は太陽神の加護を受けるだけとなった。
ウィンフィールド城の最上階、太陽神が眠るという封印の間へ。