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ウィンフィールドの夜〜翔編２〜
裏の森で夜稽古をして部屋に戻る途中で、逢坂先輩の部屋の前を通りかかった時だった。
「うわ〜〜〜っ！」
「先輩！？」
思わず扉を開けると、カギは開いていて、先輩が真っ青な顔でベッドから半身を起こしていた。
「どうかしたんですか、先輩！」
先輩は額の汗を拭って。
「いや……夢を見ただけだ。昔の……な……」
「昔の？ ……どんな夢だったんですか？」
「目の前で両親殺された時の……な」
「先輩……やっぱり夜ちゃんと寝られてなかったんですね」
オレは文芸部での先輩とのやりとりを思い出していた。
『……よくそんなに寝られますね』
そう言ったオレに。
『……だといいんだがな』
と先輩は返していたんだ。
オレはベッドサイドに腰を下ろした。
先輩はため息混じりに語り出した。
「……忘れたつもりだった。だけど酷くなったのは……音楽室でルカと闘ってからだ」
「先輩」
「情けねーよな、白い翼の王太子なんて言ってもこのざまだ」
オレは先輩の震える手を取って首を横に振った。
「そんなことない。誰だって目の前で両親殺されたりしたらそうなるよ。先輩は立派な王太子だよ」
そう言うと、先輩は少し考えるように顔を伏せた後、上目遣いで視線を合わせた。
「……なぁ羽村、前にお前が言った事、信じてもいいか？」
「前にオレが言った事ですか？」
どの言葉だろう。
「お前は死なないし、仲間も殺させない。オレにこれ以上何も失くさせないってやつだ」
「信じていいですよ。オレ、全力で頑張りますから」
「そう、か……サンキュな、翔。何だかお前が言うと安心出来るよ」
そう言うとギュッと手を握りかえされた。
「逢坂先輩。大丈夫ですよ、今は皆一緒ですから」
「……ああ、そうだな。――悪かったな、みっともない所見せちまって」
「そんな事ないですよ、話してくれて嬉しかったです」
「そうか、オレも少しすっきりしたよ」
そう言って見せた笑みは既に何時もの先輩のものだった。