前を向く真実４７

Ｐ４７

　　　ウィンフィールドの夜～来栖編～

　港町に着くと、俺達は宿に一人一部屋を取った。
　買い物から宿に戻ると、水落が声を掛けて来た。

「クリストファー様、バーでお酒を付き合って頂けませんか」
「ん、俺か？」
「はい、他にお酒に誘える方が在ないもので」
「ああ……おっさんは下戸だったっけな」
　遙か昔には飲んでるのを見た気もするが、何時からか禁酒したらしい。

「如何ですか」
「いいぜ、行こう」
　セナと連れ立ってバーに移動した。
「何に致しますか？」
「俺はあまり詳しくねーからな……任せる。詳しいんだろ」
「では、こちらなど如何でしょう」
　セナが出して来たのは、白っぽいカクテルだった。
「どうぞ」
「ああ」
　半透明の白い酒を口に含む。

「如何ですか？」
「ああ、ヨーグルトみたいな風味が……悪くないな」
「そうですか」
　セナはにこりと微笑む。
「何て名だ？　これ」
「それは……」
　セナは微かに間を持たせた後。
「〝ホワイト・ウィングス〟です」
「ぶっ……」
　俺は思わず酒を吹き出す。

　よりによってそれかよ！
　まさかこんな事で、俺が白い翼だとバレたりはしないだろうが……むしろ俺の反応の方がマズイ。
「お前……」
　思わず半眼で睨む。
「どうなさいました？」
　セナはしれっと返して来る。
「――からかうな」
「――すみません」
　こいつ……こっちに来てから、少し性格変わったんじゃねーか？
　学園に在た頃は、人当たりは良くて、だけどお堅い教師ってイメージだったけどな。
　まさか二重人格とか……
　いや、正体をバラした頃から、多少そんな感じはあったな。
〝水落先生〟と〝セナ〟……か。
　一体、どれが本当のこいつなんだろうな。
　何だか、イメージがバラバラで、統一性が無い。
　おっさんは〝セナ〟を〝己の役目に実直で、信頼の置ける人物〟って言ってたが……
　――そうなのか？
　俺にはどうも解らない。

　何度目かの酒の席で、水落――セナはこう囁（ささや）いた。
「クリストファーさま、私は時々考えてしまうんです。私もシオン中将の様に櫂と翔の傍で育てるべきだったのではないかと……」
「けど、あんたはおっさんより大分年下だろ？　襲撃があった時何歳だったんだ？」
「十二歳です」
「随分若いんだな……」
「養父のダナイと一緒に私も近衛兵に任命されましたから」
「なら仕方ねーだろ。おっさんだってオレ一人抱えて散々苦労して来たんだ。オレは其れを知ってる。あんたがそれ以上に苦労しただろうって事くらいオレにだって解る」
「クリストファーさま……しかし……」
「あいつらももう子供じゃない。……解ってくれるさ」
「……」
「だからオレから言える事はこれだけだ。――セナ、オレの従弟達を護ってくれてありがとう。本当に感謝している」
　セナの眼が見開かれた。
「クリストファーさま……身に余る光栄です……」
　その時のセナの揺れる瞳と震える声は、まるでオレよりずっと年下の様に見えた。
　オレはそれを見て、オレは此が本当のセナなんじゃないかと思った。
　幼いながらも必死に近衛兵としての使命を守り通した少年。
人当たりの良い教師や少し意地の悪い仮面の下には、シオンが言った通りの実直さがあった。
「あんたでもそんな表情するんだな……きっとそれが本当のあんたなんだな」

「本当の私……？」

「ああ、……おっさんの言ってた通り〝己の役目に実直で、信頼の置ける人物〟なんだろうさ。……オレは今のあんたの方がいいぜ」
「クリストファーさま……」

　セナは涙を堪える様に眼を閉じた。

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