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――流石に遅くないか？
まさか途中で化け物に出くわしたとか。
大丈夫だとは思うけど、どうせ寝られそうに無かったし、様子を見に行ってみる事にした。
木々の間を注意深く進んで行くと。
少し開けた岩の上に、先輩が在た。
「――ああ、羽村か」
「先輩、何してるんすか」
そう訊くと。
「見てたんだ」
「見てたって？」
「ウィンフィールド城。――最も、ここからじゃロクに見えねーけどな」
先輩は、今は暗い、山の向こうに目を向けていた。
「先輩」
「ずっと、忘れようと思っていた。もう、戻る事も出来ないし、仮に戻ったって、全部壊れちまった事を思い知らされるだけなんだと」
「……」
言葉が見つからなかった俺は、唯先輩を見詰めた。
「だから、忘れようと思ってた」
「……」
〝思ってた。〟全部、過去形だ。俺はそれに気付いたから、黙って先輩の言葉を聞いていた。
先輩は、ちょっと俯いて、話題を変えた。
「……羽村、前に文芸部の部室で言った事、覚えてっか？ 昔、お前みたいに何でも前向きに考える人が在たって」
「あ、はい」
「あれ、ロベール叔父さんなんだ」
「親父？」
「ああ」
「そっか、先輩は親父の事、知ってるんだよな。俺、親父に似てる？」
「……ああ」
先輩の目が、何処か懐かし気に細められた。
「お前達に会って、此処に来て、――思うんだ。俺は、本当は……帰りたかったのかも知れない。例え、もう、何一つ残されていないのだとしても」
「先輩……」
真っ直ぐな先輩の眼差し。
同時に、夜空に先輩の白く大きな翼が広がる。
月の光に照らされた、先輩の翼は、とても綺麗だ。
「お前等に会わなきゃ、多分、此処には来られなかった。――感謝してる」
何時も、寝てばかりでお気楽に見えていた先輩。
だけど、本当は。
きっと、先輩はずっと、こんな風にウィンフィールドの事を考えてたんだ。
俺達よりもずっと。
やっぱり、先輩が王様になるのがいいんじゃないかな。
俺はその時、そう思ったんだ。
「だって俺達仲間じゃないですか」
「そうだな。――じゃーそろそろ戻るとすっか」
そう言った瞬間、先輩の背中から翼が消えた。
「先輩、羽根、自由に出したり消したり出来るんですか」
「まぁテンションの問題だからな。ある程度はコントロール出来るさ」
「うーん、俺、出したら当分出っ放しなんだよなー」
そう言うと先輩はちょっと笑って、
「羽村らしいな。ま、お前は羽根生えて間も無いんだろ？ 慣れりゃー何とかなるさ」
「うーん、そんなもんなんですか？」
「そんなもんだ」