Ｐ４３
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「レイヤード！ 何処だ！」
叫んでも二人の姿は見当たらない。
代わりと言っては何だが、次々と仲間達が姿を現した。
「何此処……何にもない、変なの」
杏里が呟く。
「神話では此処に〝力〟の場所を示す地図があると言う話なんだが……」
そうは言ったものの、東堂先生も今ひとつ自信が持てない様子だった。
「ウソくせー話だが、捜すしかねーか。此処からは帰れねーみたいだしな」
「え？」
逢坂先輩の言葉に振り返ると、来た筈の扉も何も無くなってしまっていた。
「えぇ？ 戻れないなんて困るよ困るよ困るよ」
杏里の言葉に水落先生は顎に手を置いて
「地図を手に入れれば戻れるのかも知れませんね」
「じゃあレイヤードより先に手に入れればいいんだろ？ 急いで捜そうぜ」
俺達は微かな光を頼りに奥へと進んだ。
すると其処には一枚の壁画が現れた。
そしてレイヤードとランの姿もあった。
「レイヤード！」
「遅かったな、もう地図は私の頭の中に入ってしまった」
「レイヤード様、急ぎましょう」
「ああ、そうだな」
ふいに二人の姿がかき消えた。
「レイヤード、ラン！ 何処に行った？」
「羽村、少し落ち着け」
逢坂先輩が俺の肩に手を置いて言った。
「あいつらの行き先はウィンフィールドだ。奴らは此の地図に示された精霊を復活させる為にウィンフィールドに向かった筈だ」
「ウィンフィールド……」
「兎に角此の地図を覚える方が先決だ」
「……解ったよ」
俺は渋々頷いた。
地図は一番ウィンフィールドの地理に詳しい東堂先生が覚える事になった。
「ねぇ、此の下の所、何か書いてあるけど？」
杏里が石版の下の方を示してそう言った。
「あーそりゃウィンフィールドの文字だな」
五歳までウィンフィールドに在た逢坂先輩が文字を読み始めた。
「えーと何々……『凶悪なる黒い翼を倒す為に白い翼とその五人の仲間は、月の精霊と黒い翼に戦いを挑んだ』……
『勇者と五人の仲間は、太陽神と五精霊の守護を受け、戦いに勝利した。月の精霊は封印されたが、他のご精霊も深く傷つき長い眠りにつく。これは、その場所を記した地図なり。精霊を全て復活させ、太陽神を守護精霊とできる勇者が現れたとき、黒い翼は……』うん？ ……此は何て読むんだ？」
逢坂先輩の問いに水落先生が答える。
「殲滅（せんめつ）です」
「あ、そっか。『黒い翼は殲滅される。われわれは白い翼の勇者の再来を待ち望む』……え？」
カチャリ。
音がして壁の一部に小さな扉が現れた。
開いてみると中には鍵が一つ。
「恐らく精霊の封印……火の精霊の鍵でしょう」
「どうして解る？」
「此処のマーク……火に見えませんか」
「成る程……でもどうして急に」
「推測ですが……白い翼の勇者の子孫であるクリストファー殿下がその文章を読んだ所為ではないでしょうか」
「殿下は止めろ。兎に角此の鍵があればあいつらに先を越されずに済むって事だろ」
「その可能性は高いです」
「じゃ、後は元の場所に戻るだけなんだが……」
と逢坂先輩が石版の地図の上に手を付いた瞬間、辺りの景色がぐるりと回り元の地下空洞に戻っていた。
「意外と簡単だったな……」
逢坂先輩が拍子抜けした様に言った。
此処が元の場所だとすると……
「直人！ ……直人が在ない……」
直人が倒れていた場所には何も無かった。
「これは……」
「ええ……そうでしょう……」
「ああ……そうか」
東堂先生と水落先生と逢坂先輩が納得したように頷きあった。
「なんなんだよ三人とも！ 直人はどうなったんだよ！？」
「羽村……青木にも黒い翼はあったろ？」
「あ……」
先輩の言葉に思い当たるものがあった。
音楽室や教会での戦いと同じだ。翼のある者は死体は残らない。さらさらと崩れて消えてしまう。そう、凪の時も同じだった。
「俺が……俺が焦ってレイヤードを追い掛けたりしなければ……直ぐに病院に運んでやれば……直人は俺の所為だ……」
「羽村……」
「翔だけの所為じゃないよ。僕達全員の責任だ」
櫂はそう言ったけれど、俺の心は落ち着かないままで。
「ウィンフィールドってどうやって行くんだ？ 急いで追い掛けなきゃ！」
「羽村」
「猪突猛進。真っ直ぐなのは翔の長所でもあるけど、そんなに焦っても何も良い事は無いよ？
今みたいに周りが見えない状態じゃ相手の思う壺だよ？ もう少し落ち着いた方が良いんじゃない？」
「櫂」
「翔が当たって砕けたり、火の中に飛び込んで夏の虫になっちゃったりしたら、青木君も浮かばれないと思うけど？」
残念な事に、俺には櫂の言っている事が半分も解らなかった。
「櫂……俺にも解る日本語で話してくれ」
「え？……ぷっ」
「笑ってんじゃねーよ」
俺達の様子を見ていた逢坂先輩が口を開いた。
「んじゃ行くか？ 王族の血の中にワープの能力が伝わってんだとさ」
そう言うと逢坂先輩は剣を抜いて自分の指先を傷つけた。
「！」
「毎回痛てーんだよな」
ぶつくさ言いながらも先輩は指先から流れた血を地面に落とした。
すると地面に不思議な黒い穴が出来た。
「此処に飛び込めばウィンフィールドだ」
「よし、行くぜ！」
かけ声と共に全員が穴に飛び込んだ。