Ｐ４
兆しの予感・夜〜来栖編〜
「ふぅ……」
羽村達を保健室に送った直後。
俺は寮の自室に戻り、ベッドに転がる。
そのまま軽い眠気に眼を閉じた。
…………それから幾分か時間が過ぎて。
ガシャン！
耳慣れない金属のような音で、俺は眼を覚ました。
「何だ〜〜？」
「あ、済みません。起こしてしまいましたか」
謝って来たのは、同室になった御園生櫂だった。
どうやら、今の音の原因はこいつだったらしい。
其れが解って軽く首を振って応じる。
「いや、いい。――何時だ？」
「もうすぐ六時ですけど」
相変わらずきっちりした口調の返事が返って来た。
「そっか、メシでも食って来るかなー。……ん？」
俺は部屋にあるゴミ箱の縁に、紐の様な物が引っ掛かっているのに気付いた。
先刻の音はこれか。
「お前、何捨てたんだ？」
「何でもありませんよ」
興味と言う程でも無かったが、中途半端に引っ掛かってるのが眼に入ったから、
俺はひょいと紐に指を引っ掛けて拾い上げた。
「何だ、捨てるにはキレイなモンだな。――ペンダント？ 何でオマエが……。――！？」
俺は一瞬息を呑んだ。
このペンダントのデザイン！ 羽村が着けてたやつと同じ！？
……石の色は違うが……
「これ、如何したんだ！？」
俺は思わず、御園生に詰め寄った。
「何です、急に」
少し意外そうな声音で御園生が返して来る。
だが、俺には余裕が無かった。
「お前の物か？」
「僕のじゃありませんよ」
こいつのじゃない？
「じゃあ何でお前がゴミ箱に捨てたんだ！？」
御園生は面倒そうに視線を逸らせた。
「如何でもいいでしょう。欲しいなら差し上げますよ」
違う、そう言う事じゃ無い。問題は……！
「そーじゃねーよ。何処で手に入れたんだ？」
「貴方に関係無いでしょう」
関係はある！
だがそれを口に出す事も出来ず、其の余裕すら無かった。
「言えよ！ 何処で手に入れた！？」
思わずきつく問い詰めた。
「貴方に話す義務はありませんね。――失礼します」
御園生は冷たい眼差しで背を向けた。
「おい、御園生！」
呼び止めたが、御園生はそのまま部屋を出て行った。
俺は手にした青い石のペンダントに目を落とし、息をついた。
我ながら、らしくねーな。
先程の態度に、多少自嘲気味な反省の感情が過ぎる。
何もかも、如何でもいいと思っていた筈なんだが。
今日、色々あった所為か……
……羽村と、例のペンダントのイメージが一瞬過ぎって。
俺は改めて手元に視線を向けた。
「ん？ この石……」
指先でつついてみる。
これは。
「ガラス玉……か？」
――偽物？
「どーなってんだ……？」
僅かに拍子抜けした気分で、其れを見詰める。
……無関係だとは流石に思えないが……。
「――まぁ、いいか」
色々引っ掛かる部分はあるが……
このままってのも何だし、
……取り合えず、御園生には後で謝っておくか……。
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