Ｐ３９
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廃工場一階に足を踏み入れた。
何となくだが、地下空洞に入った時と同様の雰囲気を感じる。
そして、やはりと言うべきか――化け物どもが現れた。
俺は剣を構えて雑魚を払いつつ、仲間達の方をそれとなく観察した。
シオンはナックル。水落は銃。羽村が竹刀で、千倉はフルート。
そして、御園生は、見慣れないロッドを構えていた。
「はっ！」
ロッドの先から、稲妻に似た光の刃が現れ、敵を撃ち払う。
この、力は――
本来、白い翼の血族は魔法は使えない。
だが――千倉の事もある。
俺の中で、予想は確信に変わりつつあった。
「結構広いな……」
元は何の工場だったのか、広い空間にあちこち機械や備品らしいものが置き去りになっていて見通しが悪い。
「この辺りだけ手分けして探すか。何かあればお互い気付く距離だろ」
俺が提案すると、水落が控えめに頷く。
「ええ、ですが一人にはならないように」
「わかってるって」
俺は手を振ると、こちらを振り向きもせずに離れて行く御園生の後を追った。
「御園生」
「……」
御園生は僅かにこちらに視線をむけかけただけで、何も言わず視線を前に戻した。
どうやら気が急いている様だ。
「御園生、今の内に訊ーときたい事があんだけどさ」
「何ですか」
せかせかとした足取りに少し息をつく。
「少しは落ち着けって。焦ってもロクな事ねーぞ」
「――貴方に、何が解るって言うんだ」
「――少なくとも、失くす事への恐れなら解るさ」
少しだけ、本気の声音が混ざった。
「え？」
御園生が訝る様に視線を向ける。
「やっと、こっち向いたな」
「逢坂さん、冗談なら……」
御園生の言葉を頭を振って遮る。
「いや、――この際だからずばり訊いちまうけどさ、お前、背中に白い翼とか、生えたりしないか？」
「！？」
瞬間、御園生の顔に驚きが走った。
「やっぱりそうか」
「……何の話です」
「誤魔化さなくっていいぜ。俺も同族だからな」
「――同族？」
「そ。俺も背中に白い翼が生えんの。今見せてやれねーのは残念だけどな」
テンションの問題だから、多少はコントロール出来るとは言え、何の危険も無い状況でいきなり翼を出すと言うのは難しい。
「そんな話、いきなり言われても――」
「あ、一応身分は俺の方が上だから」
「は？」
「俺は王さまの子供。お前は王様の弟の子供。つまり俺達は従兄弟って事だ」
「……」
「俺、親父の弟のロベール叔父さんが、人間界で結婚して、双子が生まれたって聞いてたんだ」
「それって……」
「ああ。お前と、羽村の事だ」
「！」
「気付いてるんだろ？ 羽村が双子の兄弟だって。何で隠してるのかは知らねーけどさ」
「――」
御園生は、微かに複雑そうな表情を見せた。
「あの本――ウィンフィールド王国記に書いてあった事は本当だ。ついでに言うと、あの赤と青のペンダントな。あれ、ウィンフィールド王家御用達のデザインでさ。ロベール叔父さんが真理さん――お前達の母親に贈った物の筈だ」
「逢坂さん――」
「ん？ 何だ？」
「前から気になっていたんですが――では東堂先生もウィンフィールドとやらの関係者だと？」
「ああ。東堂紫苑――シオンは王陛下――俺の親父付きの近衛連隊長だった」
「では、水落先生は」
「あー水落な。俺もつい最近まで知らなかったんだが、あいつ――セナは王弟付きの近衛兵だったらしい」
「……」
「ま、保護者がウザイのはお互い様だな」
「逢坂さんは何故この学園に？」
「シオンが連れて来たんだよ。王国が黒い翼に襲われた時、シオンが俺を助けて人間界に隠した。
この学園、実はウィンフィールドに伝わる、伝説ってのがあるらしくてな」
「伝説？ どんな」
「扉だよ。どっかに封印された扉があって、それを開けると凄い力が手に入るらしい」
「力……ですか」
「ああ、白い翼にしか開けられない扉で――しかも翼の力が足りないと開かないらしい」
「……そうか――」
御園生が何かに思い当たった様に呟く。
「前から気になってたんだけどな。この学園に翼を持つ連中が集まって来たのは、偶然だと思うか？」
「そんな偶然、ある筈が無いでしょう」
「だな。俺がここに来たのは、シオンの意志だが……お前は誰の意志で来たんだ？」
「それは……」
御園生は考える様に少し目をを伏せた。
「――解らない」
ぽつりと、そう答えた。
「そっか……ま、敵じゃねーってカミングアウト出来ただけでも良しとすっか」
「相当怪しかったですが」
「仕方ねーだろ、こっちだって色々大変だったんだ。いきなり訊く訳にもいかねーし」
「まぁ、そうでしょうね」
「――と、こっちはこれで行き止まりか」
「戻って、上を目指しましょう」
「ああ」
やはりと言うか、一階には何も無かった。何かあるとしたら、上だろう。
電気も当然止まってる為、階段で上を目指す。
「皆下がれ。俺が先に行く」
シオンが全員を制して先頭に立つ。
「何か仕掛けがあるかも知れん。被害は最小に食い止めるべきだ」
「自分はどうでもいいって？」
思わず、皮肉混じりにそう言った。
すると、四角四面な言葉が返って来た。
「俺の命より、クリストファー様の命の方が重いと考えるだけです」
「……」
思わず、溜め息をつく。本当に、相変わらずだ。
すると、横から水落が言った。
「クリストファー様、差し出がましい様ですが、心配ならそう仰ってもよろしいのでは？」
「放っとけ。本当、差し出がましいな」
言って聞く様な奴じゃ無い。
「すみません」
水落は特に気にして無い様子で微笑んだ。
「あんたは――翔や櫂が止めたら、無茶を控えるか？」
そう返すと、水落は少し驚いた様だ。
「クリストファー様……」
「俺達だって、何時までも護られるだけの子供じゃねーんだけどな」
「……そうですね、すみません」
そう言った水落は、普段の何処か読めない微笑では無く、僅かだけ真摯な感じがした。