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其処には――俺以外の生徒の姿が三人。
何だ、此のメンツは。
御園生櫂、羽村翔、千倉杏里――。
俺一人なら、退学話かとも思ったが、どうやら違うらしい。
「揃ったようだな」
「――で、話って？」
正面の机に陣取っている学園長――若林だったか――に切り出す。
「この学園の敷地内に、廃工場の建物があるのは知っているかね？」
「あー、あったな」とオレ。
「あるのか？」と羽村。
「うん」
「ある」杏里と御園生も頷いた・
転入したての羽村以外は全員知っている様だ。
若林は説明を続ける。
「その廃工場に、最近幽霊を見たという噂が持ち上がってね」
……新任して来た時から思ってたが、この学園長、言ってる事が胡散臭すぎる。
「もしや浮浪者でも住み着いているのではと言う事で、調べる事にしたのだが、良ければ君達に行ってもらえないかと思ってね」
「はぁ？ そんなん生徒に頼む事か？ 先生方の誰かが行くのが筋じゃねーのか」
面倒な予感。
「確かに、逢坂君の言う通りなのだが……。先生方の転出が続いてこちらも人手が足りない上に、噂程度ではと断る方も多くてね。
実は今朝、一足先に、一人出向いてもらったのだが……未だに戻って来ない。――御園生君の親友で、上杉凪と言う子だ」
「凪……！」
御園生の表情が張り詰めた物に変わった。
凪……どっかで聞いたな。
どこだったか……。
「お前の親友なのか？ その凪ってやつ」
羽村が御園生に尋ねる。
「ああ。凪は親友だ。僕のたった一人の……」
御園生は固い表情で、だがはっきりとそう言った。
「行ってもらえるかな？」
「……ああ、行く」
若林の言葉に、御園生は厳しい眼差しで答えた。
「君達はどうする？」
「その前に、何で俺達なんだ？ 俺達はその、凪ってやつとは関係ねーだろ？」
そう言いながら、俺は思い出していた。
二十日くらい前か。寮で見掛けた、見慣れない学生。そいつが確か、凪とかって名乗った。
同一人物だろうか？
「君達の武勇伝を聞いたものでね」
若林はさらっと返して来た。
「へぇ……成る程ね」
「行ってもらえるかな？」
「俺は行く。その凪ってやつ、櫂の親友なんだろ？」
羽村が真っ先に答えた。
「ぼ、僕も……行きます」
続いて千倉。
「面倒くせーな……」
どー考えても胡散臭すぎる。怪しい事この上無い。
「逢坂先輩は……来てくれないの？」
「千倉……」
眼が雄弁に〝来てくれ〟と訴えていた。
俺を地割れ現場に引っ張って行った時と同じだ。
「……」
「逢坂先輩～」
面倒な予感はする。だが……。
「～～わーったよ、行きゃーいーんだろ、行きゃー」
どうせ、乗りかかった船だ。仕方ねーな。
「先輩！ ありがとありがとありがと！」
「解った解った」
「では、宜しく頼むよ」
学園長室から出て、昇降口に向かって歩きながら。
「どーも怪しいと思わねーか」
俺は三人にそう言ってみた。
「怪しいって、何が？」
羽村……気付いて無いのか。ある意味すごいぞ。
「この話は、間違いなく罠だよ。僕達を陥れる為の」
御園生が、確信に満ちた声で答えた。
「えぇっ？ 罠って……」
千倉が驚いた様にわたわたしている。
「へぇ、お前は確信しちゃってる訳だ。根拠は？」
俺のは疑惑止まりだ。限りなく黒に近いグレー。
「それは言えない。けど、確信はあります。嫌なら無理に来なくていいんですよ。僕一人ででも行きます」
御園生が固い口調で言った次の瞬間。
「バーカ」
すぱんと景気良い音と共に、羽村の突っ込みが入った。
「罠ならなおさら味方は多い方がいいだろ。一人より二人。二人より三人ってさ」
「……」
御園生は少し戸惑ったような顔を見せた。
俺は御園生に告げた。半眼で。
「下手すりゃもっと増えるかもな……」
「と言うと？」
「俺も行こう」
廊下の角から、紫苑が姿を現した。何処から聞いてたんだか知らないが、先刻から気配があった。
「東堂先生？」
「学生だけであの場所に行くのは危険だ」
「学園長は、俺達だけで行かせるつもりだったぜ？」
俺が言うと。
「学園長が何と言おうと、俺も付いて行く」
俺が異論を唱えようとしたその時。
「私も行きます」
がらりと戸が開いて、出て来たのは水落だった。
そーいや、此処理科準備室前だな。
「貴方の手は借りません」
御園生がふいと視線を外し、歩き出した。
「私が勝手に付いて行くだけですから」
こっちもかよ。
「御園生君、先生達にも来て貰おうよ」
千倉が取りなしている。
「俺も賛成」
羽村もそう言った。
俺としては、御園生に同意したい所ではあるんだが。
この二人、立場上どうしたって付いてくるつもりだろうしな。
「諦めた方がいいぜ？ 御園生」
内心の溜め息と共に、茶化し気味に、御園生の肩をぽんと叩いた。