Ｐ３７

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「良いことって言うか――この前、凪と話してた、千倉って子と話してみて――普通の接し方ってどういう物なんだろうって思ってた」
「普通？」
「うん。僕には解らないのかも知れないな」
「櫂は普通になりたい？」
「――ううん、そういう訳じゃ無いんだ。徒、違いがあるなら、知っておくのも悪くないかなって」

「そう……。そう言えば、櫂。��翔兄ちゃん�≠ﾉ会った？」
「え？　何で……」
　戸惑うと、凪は緩やかに微笑んだ。

「……思い出したんだね、櫂……」
「凪……」
「��翔兄ちゃん�≠ﾉ会って、どうだった？」
「本当、凪には何でも解るんだな」

「うん。解るよ。でも、櫂に話して欲しい。どう思った？」
「どうって……複雑、だよ。色々」
「複雑？」
「うん、どう考えていいのか……やっぱり昔のままじゃ無いから。色々」

「僕にとっての櫂は、変わらないよ」
「凪……。そうだね、僕にとっての凪も、変わってない。変わらない部分ってのもあるんだ、きっと」

「うん。何が変わっても――僕は櫂の味方だよ」
「ありがとう、僕も凪を助けるから」

「うん。時間が――味方になってくれる事もあるんじゃないかな」
「時間が？」
「そう、櫂が言ってたみたいに、何時までも弱いままじゃないし……普通って事や��翔兄ちゃん�≠ﾌ事も、解るようになるかも知れない」
「凪……そうかも知れないな」
「櫂、ひとつだけ、約束してくれる？」
「何？」

「��忘れないで�＝v

　凪は真っ直ぐに僕を見て、そう言った。
「凪――忘れないよ、絶対」

　今なら、凪がそう言う理由が解る。
　凪は、僕が翔を忘れていたのを知ってたんだ。

「ありがとう、櫂」

　凪がそう言うなら、絶対に忘れない。

　同時に僕は思い出していた。
　翔が正反対の事を言っていたと。
��僕の事は忘れちゃいなよ�≠ﾆ。
　何故かは解らないけど、そう言った。
　そして僕は、本当に――忘れていたんだ。


　凪を見送って、戻ろうとした時。
「櫂？」
「！」
　凪とは別の声。
　其処に在たのは、翔だった。
「――何か用？」

　やや下げたトーンで訊く。
「用って言うか、知ってる奴が在たら声位掛けるだろ。せっかくだから、話でもしないか？」
「この前みたいな寝言ならごめんだよ」
「いいよ、お前が弟じゃなくても」
「？」

　やけにあっさりだな。

「でも俺、本当に弟の事探してたんだ。あいつが在なくなった時、俺、身体の半分が透明になっちゃったみたいな――心が半分失くなったみたいな――そんな気がしたんだ。俺にとって、櫂が在るのが当たり前で――それが在なくなるなんて、実際にそうなるまで、ちらっとも思わなかった。俺にとっては、櫂が��心�≠ｾったんだ」

「！」

　何故か、其の言葉に引っ掛かった。
　心――
　欠けた――アンバランスな精神。
　普通が解らない僕達の心。
　それは単に、安全とか、保障とか、そう言う物が無い環境で育った所為で、単純な一般論かも知れない。
　だけど。

「弟が、心？」
　思わず、聞き返していた。

　僕が、失くしたのは――
「うん、櫂は俺の心の半分。世界で唯一の家族だったから――。だから、何年経っても、会えば絶対解るって、そう思ってたんだ」

　翔は、迷いの無い言葉を紡ぐ。

「――その割にはイマイチだったね」

　そう返しながら、僕は引っ掛かりの正体を探していた。
　欠けてしまったもの。
　心？　記憶？　それとも――

「……そうか？　まぁいいや。だからさ、お前に嫌な思いさせたかったんじゃ無いんだ」

　其れは……解ってる。
　出来るなら……こんな状況で無く、会いたかった。

「話は解ったよ」
「そっか？　ならいいや」
「話はそれだけ？　だったら僕はもう戻るよ」
「ん？　あぁ、もう遅いな」
「じゃ……」

　翔に背を向ける。
　どこか割り切れない気持ちのままで。
　何時か……全ての正体が解る日が来るだろうか？

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