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「翔君の事……御園生君は迷惑だって思ったかも知れないけど……あんまり怒らないであげて欲しいんだ。翔君、御園生君が弟かも知れないって、あのペンダントの事も、取り返そうってすごく頑張ってたんだ。だから……」
「悪いけど、僕には関係ない」
たどたどしく繋ぐ言葉を、冷ややかに切り捨てると、ちょっと脅えた感じで。
「ご、ごめんね、余計な事言って……。でも翔君、悪気があった訳じゃ無いんだ。
それだけは、言って置きたくて……気に障ったならごめんなさいっ」
言うなり、そそくさと席を立って立ち去った。
何だろう、……ちょっときつかったかな。
今の学生や、翔に、悪気が無かった事位は解っている。
まぁ、悪気が無いからって全てが許される訳じゃ無いけど。
「？」
先程の学生が座っていた席に、何か置いてある。
これは、フルートのケース？
あの学生、音楽やるのか……じゃ無くて、どう考えても、さっきの忘れ物だろう。
ケースには、千倉杏里……と署名が入っていた。
何となく、僕が原因の様な気もするしな……
僕は微かに息をつくと、そのケースを持って立ち上がった。
寮の部屋に近い廊下で、さっきの学生を見付けた。
「これ、君の？」
フルートを差し出すと。
「あっ！ ホントだ、ありがとうございますありがとうございますありがとうございます」
わたわたと頭をさげて受け取る。
「いや……僕も言い過ぎたかな、悪かったね」
「御園生君って……優しいんだね」
「え？」
「だって、社長さんで忙しいのに、わざわざ届けてくれたし……」
「別に……優しくなんか無いよ。それと、僕は理事長代理。社長じゃ無い」
「え、そうなの？」
「ああ」
「でも、御園生君はいい人だよ。だって――御園生君のピアノの音、凄く綺麗だもの」
「え？ ピアノって――」
――少し驚いた。
確かに気晴らしに時々、音楽室で弾いてた事はあるけど――知ってるのか？
「あ――ごめんね、御園生君は知らないよね。僕、朝とか夕方とか、音楽室空いてる時、良く使ってるんだけど――時々、見掛けてたんだ。
御園生君の事。一度、準備室に在る時、御園生君が来て――その時、聴こえたんだ。御園生君のピアノの音。
邪魔しちゃ悪いと思って、声は掛けられなかったから――」
――そうだったのか。
「ごめんね、別にこっそり聴こうとした訳じゃ無かったんだけど……聴かれたく無かった？」
「別に、いいよ。特に隠す事じゃ無いしね」
「なら良かった。個人練習とか、人に見られたくないって人もいるし……」
「……」
優しいとしたら、彼の方なのかも知れないな。何となく、そんな事を思う。
多分、僕とは違う世界が、見えるのだろう。
「じゃあ、そろそろ時間だから」
そう告げると。
「あっ、ホントだ！ じゃ、またね御園生君！」
わたわたと去って行った。
千倉杏里……か。そう言えば、凪と話しているのを見掛けたな。
凪も少し困っていたっけ……
僕達は、普通の接し方って言うのが、解らないのかも知れない。
どこかが酷くアンバランスで――
それを気に掛ける事も無かったけれど。
それでも僕達は、〝外〟へ向かうと決めたんだ。